7月23日、PCMagが「White House: China's Kimi K3 AI Model Cheated by Cloning US Tech」と題した記事を公開した。ホワイトハウスが中国のAIモデル「Kimi K3」はAnthropicの技術を無断で蒸留(distillation)して開発されたと主張し、規制強化の姿勢を示しているという内容で、証拠の公開はなく業界内でも賛否が割れている。
ホワイトハウスが「Kimi K3はAnthropicの技術の無断盗用」と主張
ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)のディレクターであるMichael Kratsiosは、中国のスタートアップMoonshot AIが開発したAIモデル「Kimi K3」は、Anthropicの最新モデル「Fable」を大規模に蒸留することで開発されたと主張した。なお「Fable」はKratsiosおよび元記事が使用している名称だが、Anthropicの公式リリース名として広く報じられているモデル名とは異なる可能性があり、読者は留意されたい。
「我々は、Moonshot AIがK3の開発にあたりAnthropicのFableを蒸留したという情報を持っている。そのために、米国モデルへの大規模な蒸留を実行する高度な内部プラットフォームを構築し、検知を回避するために複数のアクセス手段を素早く切り替えていた」
— Michael Kratsios(X、旧Twitter)
Kimi K3は、DeepSeekに続く「米国AI覇権への挑戦」として注目を集めていたモデルだ。だが今回、その開発プロセスそのものが問われる事態となった。ただし、Kratsiosの発言に具体的な証拠は現時点で示されておらず、あくまでホワイトハウス側の主張・疑惑として受け止める必要がある。
「蒸留」という手法が問題の核心
蒸留(knowledge distillation) とは、本来は大規模モデルの知識を小規模モデルに転移させる技術だ。コスト効率の良いモデル開発手法として広く使われている。
ただし、今回問題とされているのは、その蒸留を無断かつ大規模に他社の商用モデルに対して実施した点である。
Anthropicは今年2月、Moonshot AI・DeepSeek・MiniMaxの3社が、自社チャットボット「Claude」の推論・コーディング能力を蒸留によって抽出していたと公式ブログで指摘していた。Moonshot AIのケースでは、数百の偽アカウントを使い、Claudeとの340万回ものやり取りを通じて情報を収集したとされる。
Anthropicのパブリックポリシー責任者Sarah Heckも次のように述べた。
「違法かつ敵対的な蒸留は知的財産の窃取であり、産業スパイだ。米国と民主主義同盟国にとって深刻な国家安全保障上のリスクをもたらす」
— Sarah Heck(X)
なお、蒸留行為自体は現行法で明確に違法とされているわけではなく、今回の件が法的にどう位置づけられるかは現時点で不明確な部分が多い。
GPU密輸疑惑も浮上
Kratsiosはさらに、Moonshot AIがタイ経由でNvidiaのBlackwell GPUを調達し、米国の対中輸出規制を回避していた疑いがあるとも主張した。
Blackwellは現在Nvidiaの最新世代GPUアーキテクチャであり、米国は先端AIチップの対中輸出を厳しく規制している。第三国を経由した迂回調達は以前から懸念されていた問題だ。こちらについても、現時点で具体的な証拠が公開されているわけではない。
規制強化の動きと業界の反発
こうした動きを受け、トランプ政権は中国モデルを米国企業がホスティングすることを禁止する案を検討しているとAxiosが報じた。財務長官Scott Bessentも「海外モデルが米国企業から盗みを行っていることが確認された場合、制裁を科す能力がある」と発言した。
一方で、規制強化に懐疑的な声も上がっている。テック投資家のChamath Palihapitiyaは反論した。
「中国の脅威を利用して政府にフロンティアラボのビジネスモデルを守らせようとするのは間違いだ。OpenAIやAnthropicの投資家5,000人の株価を守るために他の全員を犠牲にしている。市場に任せるべきだ」
— Chamath Palihapitiya(X)
また今回の騒動は、米国のクローズドソース戦略と、中国が推進するオープンウェイトモデル(モデルの重みを公開するが完全なオープンソースではない形式)のどちらが正しいアプローチかという議論にも火をつけている。証拠が公開されないまま規制論が先行する現状に対し、業界内では慎重な見方も根強い。
AIの知財保護と輸出規制が絡み合うこの問題は、今後の米中AI競争の行方を大きく左右する可能性がある。
詳細はWhite House: China's Kimi K3 AI Model Cheated by Cloning US Techを参照していただきたい。