7月23日、Matthias Bastianが「Anthropic's $1.5B piracy settlement with book authors is a record loss that hands AI labs their biggest legal win」と題した記事を公開した。Anthropicが書籍著者との著作権訴訟で15億ドルという集団訴訟史上最大の和解金を支払う一方、AI学習そのものの合法性については重要な司法判断を引き出したことを詳しく報じている。支払い金額だけ見れば大敗だが、AI業界全体の今後を左右しかねない「線引き」が、この和解によって浮かび上がってきた。
史上最大の著作権和解、しかし勝者はAnthropicかもしれない
サンフランシスコの連邦裁判所が承認したこの和解は、一見するとAnthropicの大敗に映る。だが中身を読み解くと、AI業界全体にとって最大の法的勝利でもある。
事の発端は、Anthropicが2021年から2022年にかけて、海賊版データベース「LibGen」および「PiLiMi」から書籍を無断ダウンロードしたことだ。LibGenはロシア発祥の大規模な非合法電子書籍データベースで、研究者やAI開発者の間で広く知られている。PiLiMiも同種の海賊版リポジトリだ。対象となった作品は約48万2,460点。そのうち91.3%が権利主張され、1作品あたり平均約3,000ドル(法定最低額の4倍)が支払われる。Anthropicは海賊版ファイルの破棄も義務付けられた。
和解金の総額15億ドルは、集団訴訟における著作権侵害の和解としては史上最大の金額となる。
核心:「海賊版の入手」と「AI学習の実施」は別問題
この和解が持つ最大の意味は、支払いが海賊版の入手行為に対するものであり、AI学習そのものに対するものではないという点だ。
本件を担当したAlsup判事はすでに以前の審理において、合法的に入手した書籍をAI学習に使用することは「変容的利用(transformative use)」にあたり、フェアユースに該当するとの判断を示している。フェアユースとは、米国著作権法107条に定められた法理で、著作権者の許諾なく著作物を利用しても、その利用が変容的・非商業的・公益的であれば侵害にならないとするものだ。Alsup判事はAI学習の変容性をとりわけ強く認定したとされ、この判断は今後の類似訴訟で引用される可能性がある。
これはAI業界にとって極めて重要な先例となりうる。「海賊版データベースから無断入手した」行為は違法だが、「合法的に取得したデータでモデルを訓練する」行為はフェアユースとして保護される可能性がある——という二段構えの構造が司法によって示されたかたちだ。
なお、著者側は今後の権利を一部留保している。AIが元の著作物を再現するような出力に対する請求権、およびAnthropicの将来の行為に対する請求権は、この和解の対象外とされた。つまりAnthropicが今後も著作物に酷似した出力を生成し続けた場合、別途訴訟リスクが残る。
業界への影響:未解決の問いが山積する
今回の判断がAI業界全体に与える影響は大きいが、すべての法的問題が解決したわけではない。
まず、米国著作権局は別途、「大量の著作物で訓練されたAIにはフェアユースは適用されない」との見解を示しており、行政と司法の間に見解の齟齬がある状態だ。著作権局の見解は法的拘束力を持つわけではないが、立法論議や他の訴訟における参考資料として機能しうる。
次に、ウェブサイト所有者の同意なしに行われた大規模スクレイピングが「合法的取得」にあたるかどうかという問いは、今回の判断では直接扱われていない。OpenAI、Google、Metaなど他のAIラボが現在抱える著作権訴訟でも共通の論点であり、各訴訟の行方が注目される。
また、Anthropicは海賊版データベースを利用したという事実が明確になったことで、今後の訓練データ調達の透明性に対する社会的圧力が高まる可能性もある。業界全体として「データの出所」を問われる局面は、むしろこれから本格化するだろう。
今回の和解が示した構造を端的にまとめると、「海賊版データベースの利用は支払いが必要」「しかし合法的に入手したデータでのAI学習はフェアユースで守られる可能性がある」という二重構造だ。今後のAI著作権訴訟は、この「合法的取得」の定義をめぐる争いに集約されていく可能性が高い。
詳細はAnthropic's $1.5B piracy settlement with book authors is a record loss that hands AI labs their biggest legal winを参照していただきたい。