7月23日、Wiredが「China's Open AI Models Are Challenging Silicon Valley's Playbook」と題した記事を公開した。中国のオープンソースAIモデルがシリコンバレーの「クローズド・高コスト」戦略を揺さぶりつつある構造について詳しく紹介されている。
※本稿で言及するモデル名・バージョン番号(GLM 5.2、Qwen 3.8、GPT 5.6、Fable 5、Opus 4.8など)は、元記事が執筆された2026年7月時点の最新モデルを指す。
「第二のDeepSeekショック」が静かに起きている
2025年1月、DeepSeekのR1モデルが世界を驚かせてから半年。再び中国AIラボが存在感を示している。
Z.aiがGLM 5.2(6月)、Moonshot AIがKimi K3(7月)、AlibabaがQwen 3.8(7月)と、主要な中国ラボが立て続けにオープンソースモデルをリリースした。特にK3は最も注目を集め、トランプ政権のAIアドバイザーであるベンチャーキャピタリストのDavid Sacksが「懸念すべき性能だ」と述べたほどだ。
さらに踏み込んだ発言もあった。ホワイトハウス科学技術政策局長のMichael Kratsiosは、「Moonshot AIがAnthropicのFableモデルを蒸留してK3を開発したという情報がある」と主張し、「米国の独自技術の窃用であり容認できない」と述べた。ただしこれはあくまでKratsios側の一方的な主張であり、Moonshot AIはコメントを返していない。事実関係は現時点で確認されていない点に留意が必要だ。
中国モデルの共通点:オープン・エージェント特化・ほぼ同等の性能
今回の一連のモデルには3つの共通点がある。
- 第三者ベンチマークでは西側トップモデルとほぼ同等の性能
- エージェント型コーディングタスクに最適化(2025年のAI界で最もホットな領域)
- **オープンウェイト**で公開済み、または近日公開予定(「オープンウェイト」とは、モデルの重みパラメータを公開・配布しているモデルを指す。ソースコードの公開を伴うとは限らない)
クラウドソーシング型の評価プラットフォームArena AIによると、K3はウェブ開発タスクで1位、エージェントタスクで4位(AnthropicのFableとOpus 4.8、OpenAIのGPT 5.6に次ぐ)。独立系ベンチマーク企業Artificial AnalysisのインテリジェンスインデックスではK3は3位に位置する。
K3のプレビュー版が7月16日にリリースされた直後、世界中からアクセスが殺到し、推論リソースを圧迫。Moonshot AIは新規ユーザー登録を一時制限する事態になった。
「オープンvs.クローズド」がそのまま「中国vs.米国」になってきた
DeepSeek登場以降も、西側の主要ラボはクローズド路線を強めている。
AnthropicはMythosモデルについて「ハッキング能力が危険なほど高い」として長期間アクセスを制限し、最終的にホワイトハウスが広範な輸出規制を発令。AnthropicはMythosと関連モデルFable 5を一時オフラインにした。OpenAIもホワイトハウスからの要請を受けてGPT 5.6のリリースを遅らせた。
一方で中国側は逆の方向に進んでいる。オープンウェイトモデルであれば、十分な計算環境さえあれば誰でもダウンロードし、ローカルで動かし、カスタマイズできる。Alibabaは「クローズドソース移行か?」との観測が流れた直後、Qwen 3.8をオープンウェイトで公開することを発表した。
実際に使われ始めている
話題だけでなく、実用ツールとして使われ始めている点が今回の状況の本質だ。
独立系AI研究者のNathan Lambertは「GLM 5.2のリリースから数週間後も、ベイエリアのAI研究者が日常のワークフローで使い続けているという声を聞く。Kimiはさらに強力なので影響はより大きいだろう。特にMythos、Fable、GPT 5.6が安全ガードレールにより実質使えないサイバーセキュリティ分野では」と述べている。
その実例も出た。Hugging Faceは本番システムへのサイバー攻撃を受け、その分析にGLM 5.2を使用したと明らかにしている。理由は他のフロンティアモデルが安全ガードレールにより協力を拒否したためだ。なお元記事では、当該サイバー攻撃の経緯についても言及されているが、攻撃主体に関する記述については元記事を直接参照されたい。
コストの優位性は「思ったほど単純ではない」
中国モデルは価格が安い面もある。ただし、元ホワイトハウスAIアドバイザーでOpenAIの戦略フューチャーズ責任者に就任したDean Ballは、K3を「非常に良いモデル」と評価しつつも次のように述べた。
「私の限られた使用経験では、K3はトークン消費量がかなり多かった。このモデルが実際に安く使えるかどうか、自明ではない」
同等の問題解決に必要なトークン数が多ければ、コスト差は縮まる。それでも彼はこう結論付けた。「結局のところ、オープンウェイトモデルはAIへの設備投資(capex)をさらに抑制する」。
「OpenAIとAnthropicは競合より大幅に先を行っている」という前提が崩れつつある
Tech Buzz Chinaのファウンダー、Rui Maはソーシャルメディアへの投稿でこう書いた。
「Kimiがこれほど愛されたことは驚異的だ。シリコンバレーのラボが過去1年間にとってきた稚拙なコミュニケーションと意思決定があってこそ実現した」
Lambert研究者も「Anthropicはリスクを過大に喧伝している、あるいは現時点ではまだ存在しないリスクを語っている」と指摘する。一方で「Mythosが実際にどんな性能なのか、一般市民と同様に私も一次情報をほとんど持っていない。判断を少数の民間企業と、機能が低下した連邦政府に委ねている」とも述べており、情報の非対称性の問題を示唆している。
詳細はChina's Open AI Models Are Challenging Silicon Valley's Playbookを参照していただきたい。