7月21日、Help Net Securityが「AI agents are still logging in as humans」と題した記事を公開した。企業内でAIエージェントが人間のログイン情報を流用する実態と、それによって生じるアイデンティティリスクの深刻化について、Oktaの調査データをもとに報告している。
Oktaが2万社以上の匿名サインオンデータを分析した「Enterprise AI Index」の調査結果が公開された。対象期間は2022年6月から2026年6月の4年間。エンジニアにとって身近な話題が多いが、中でもAIエージェントが人間のログインを「借りて」動いているという実態は、セキュリティ上の盲点として注目に値する。
特筆すべきは市場シェアの変化だ。AnthropicがエンタープライズアカウントでOpenAIを逆転したことが明らかになったが、それ以上に重要なのは、こうしたプラットフォームの急増そのものがアイデンティティリスクを構造的に拡大しているという指摘である。
AIエージェントは人間のアカウントで動いている
最も深刻な指摘は、AIエージェントの認証方法だ。
現状、企業がエージェントに権限を与える手段の主流は、サービスアカウント、静的APIキー、そして一部では人間の共有ログインである。ここで理解しておきたいのが、「Non-Human Identity(NHI)」という概念だ。NHIとは、AIエージェントやスクリプト、CI/CDパイプラインなど、人間ではなくシステムやソフトウェアが主体となるアイデンティティを指す。OAuthのサービスアカウントや静的APIキーがその代表例だが、現状の企業環境ではNHI専用のライフサイクル管理が整備されていないケースが多く、代わりに人間のアカウントがそのまま流用されている。
OktaのPrincipal Emerging Tech ResearcherであるFei Liuは次のように述べている。
「AIエージェントが人間のログインを引き継いだ瞬間、監査証跡は完全に失われる。ある重要な操作が従業員によるものなのか、アルゴリズムが自律的に行ったものなのか、もはや区別できない」
これはコンプライアンス上の問題だけでなく、インシデント発生時の原因追跡を事実上不可能にする。Liuは各エージェントに対して3つの問いを立てるよう勧めている。「どこで動くか」「何に接続できるか」「何ができるか」。そのうえで、ライフサイクル管理とアクセスレビューを持つ専用のNHIの導入が急務だとしている。
シャドウAIの実態:公式ツールより多い
さらに問題なのは、ITが把握していない「シャドウAI」の存在だ。シャドウAIとは、企業のIT部門が正式に承認・管理していないAIツールやモデルを従業員が独自に利用する行為を指す。クラウドサービスの普及やLLM APIの手軽さによって、エンジニアやマーケターが個人的にツールを調達することが容易になった結果、今この問題が急速に顕在化している。
Liuによれば、このシャドウ層は公式に承認されたAIツールの利用規模を上回るという。
「ITが1つのエンタープライズ向けAIツールをプロビジョニングすれば、必ずどこかの開発者やマーケティングチームが自分たちのクラウド環境に別インスタンスを立ち上げるか、個人アカウントで非承認モデルを使っている」
問題は可視性の欠如だ。従業員が個人アカウントで非承認のLLMにアクセスし、プロプライエタリなソースコードや顧客データをプロンプトに貼り付けた場合、セキュリティチームには一切の可視性がなく、アクセスを取り消す手段もない。
対策として提案されているのは「舗装された道(paved roads)」の整備だ。従業員がITを迂回せざるを得ない状況を作らないよう、最もリクエストの多いAIツールをSSOとガバナンスの枠組みに取り込む環境を整えることが重要だとしている。
プラットフォームが増えるほどリスクが広がる
調査では2万社以上のデータをもとに、AIプラットフォームの採用状況も明らかにされている。
- AI専業ベンダー(Anthropic、OpenAI、Cursorなど)は企業顧客数が4倍以上に増加
- AnthropicはOpenAIを逆転:2026年3月にエンタープライズアカウント数でOpenAIを上回り、翌4月には月間アクティブユーザー数でも逆転した
- ただしMicrosoft 365は絶対的な導入規模ではいまだ圧倒的であり、AnthropicのエンタープライズアカウントはMicrosoft 365の半数以下にとどまる
AnthropicがOpenAIを逆転したこと自体、エンタープライズ市場における競争環境が急変していることを示す。同時にこのデータが示すのは、企業が使うAIプラットフォームが単一ではなく複数に分散しているという現実だ。プラットフォームが増えると、それぞれが独自のシークレットやトークンを持ち込む。アプリ間連携が増えるほど、過剰権限を持つアプリや使われなくなった孤立トークン(オーファントークン)が蓄積する。Liuは「新しいソフトウェアベンダーを追加している」という感覚を捨て、「アイデンティティファブリックを拡張している」という認識に切り替えるよう求めている。
エージェント時代のアイデンティティ管理
AIの利用フェーズはオートコンプリート→チャット→エージェントと進化してきた。2025年春ごろからコーディングツールが長い作業チェーンを人間の介在なく実行するようになり、エージェント化が加速している。
ツールが増え、エージェントが増え、クレデンシャルが増える。この構造的な変化に対して、Oktaが提示する答えは一元的なアイデンティティ層の構築だ。すべてのプラットフォームに対して、アクセス付与・レビュー・失効を一か所で管理できる仕組みが、リスク低減の中心に置かれている。
NHIの管理手法や関連するセキュリティ標準については、OWASP Non-Human Identities Top 10も参考になる。また、OAuthベースのサービスアカウント設計の基礎についてはRFC 6749(OAuth 2.0)を参照されたい。
詳細はAI agents are still logging in as humansを参照していただきたい。