7月21日、Keith Kirkpatrickが「Agentic AI's Real Test Is Process Redesign」と題した記事を公開した。Salesforce AgentforceをパイロットまたはPoC評価中の企業のうち「明確な価値あり」と回答した割合は、わずか半年で11.8%から6.3%へと半減した——この数字が示すのは、AIエージェントの失敗がモデルの賢さの問題ではなく、業務プロセスの再設計と変革管理の欠如にあるという構造的な実態だ。
「デモは動く、本番で詰まる」という構造的問題
ETR(Enterprise Technology Research)が2026年5月に実施した調査によると、Salesforce AgentforceをパイロットまたはPoC評価中の企業のうち、「significant value(明確な価値あり・拡大・購入予定)」と回答した割合は6.3%に留まった。これは2025年11月時点の11.8%から半年で半減した数字だ。同時期にAgentforceが登場するパイロット件数自体は増加しており、「評価の機会は増えたが、本番移行の確度は下がった」という状況が浮かび上がる。
ETR調査は、企業のIT意思決定者・調達担当者らで構成されるパネリストへの継続的な定性ヒアリングを基盤としており、製品ごとの採用動向を時系列で追える点が特徴だ。ただし定量サーベイとは性質が異なり、回答者の企業規模・業種の分布には留意が必要である。
比較対象として、ServiceNow AI Agentsは同期間で7.0%→11.1%と逆に改善している。この差は製品の賢さよりも、それ以外の要因で説明できる——というのが本記事の主張だ。
成熟度の差を作っているのはモデル品質ではない
Futurum Researchが2026年上半期に実施した「AI Platforms Decision Maker Survey」(n=820、エンタープライズのAI関連意思決定者を対象とした定量サーベイ)では、組織のAI成熟度を段階別に分析している。ETR調査とは調査手法・対象が異なるため単純な数値比較はできないが、両調査は「本番移行を阻む要因」という同一の論点を異なる角度から照らし出している。
最上位の成熟ステージ(Stage 5:自律的なエージェントエコシステムを運用)に達している組織は全体のわずか**13.3%に過ぎず、それ以外の組織でStage 5相当の自律エージェント運用に到達しているのは13.1%**だった(Stage 5組織では78.0%)。
注目すべきは、この成熟度の差を生んでいる要因だ。「競合より遅れている」と自己評価する組織と「進んでいる」組織では、直面しているボトルネックが異なる:
- レガシーシステムとの統合:遅れている組織で顕著(13.1ポイント差)
- 人材・組織の適応:同じく遅れている組織で顕著(12.4ポイント差)
- エージェントの信頼性・ハルシネーション懸念:むしろ進んでいる組織の方が高い(58.5% vs 50.5%)
つまり、信頼性の問題はスタートを妨げるのではなく、スケールするにつれて深刻化する。遅れている組織がつまずくのはシステム統合と人の問題であり、モデルの賢さとは別の話だ。
ベンダーに問うべき質問が変わった
ETR Insightsのパネリストは、AIエージェントが失敗するときのパターンをこう表現している:「変わっていない業務オペレーションの上にそのまま乗っけた(thrown on top of)とき」に失敗し、「ベンダーが業務プロセスそのものを再設計し、それを使う人の変革を支援したとき」に成功する、と。
またFuturumの調査に参加したIT意思決定者の中には、異なる文脈でModel Context Protocol(MCP)——AIエージェントが外部ツールやデータソースと標準化された方法で連携するためのプロトコル——に関するパネル討議に参加した者も含まれており、そこでも同様の指摘が出ている。「エージェントの展開はプロセス変革であり、人の変革でもある。にもかかわらず、変革管理がスキップされることが多い」というものだ。MCPのような標準化レイヤーが整備されても、それを使いこなす組織側の体制が伴わなければ本番移行には繋がらない、という文脈での言及である。
本記事が提唱する購買側のアクションは明確だ:
- パイロット開始前に、ベンダーから「プロセス再設計の方法論」と「実名の導入実績」を要求する。セキュリティ認証やSLAと同格のゲーティング要件として扱う。
- 「本番移行率(Pilot-to-Production Rate)」を主要KPIに据える。席数やデモ性能ではなく、パイロットが実際に本番稼働に到達した割合を追う。
- ベンダーの「地味な投資」を評価する。エージェント本体の知能よりも、インテグレーションツールと変革管理サービスへの投資量を見る。
SAP Agent Hub(ガバナンス・権限管理・エージェント群の監視に特化)や、Oracle・Zendesk Action Builderのバックエンド統合フックへの投資は、まさにこの「地味な層(Boring Layer)」への賭けだと記事は評価している。
今後の注目点
- Salesforce Agentforceの「significant value」比率がさらに下落するか反転するか(続落なら製品固有の問題が濃厚)
- プロセス再設計・変革管理サービスを「非公式な対応」ではなく正式なサービスメニューとして整備するベンダーが増えるか
- 金融・医療・行政分野での自律型エージェント(アシスタント型ではなく)採用が市場全体より遅れるか(信頼性・説明可能性への要求が高いため)
※上記3点は、元記事の論旨を踏まえた編集部の考察であり、元記事に明示された予測ではない。
なお、Futurumの同調査では、エンタープライズの意思決定者の**56.0%**が「市販製品より自社開発を優先する」と回答しており、この数値は前半期からほぼ変化していない。これは、既製品が自社ワークフローに合わないという不信感の現れであり、プロセス再設計支援がないベンダーへの評価が上がりにくい構造を説明している。
詳細はAgentic AI's Real Test Is Process Redesignを参照していただきたい。