7月21日、Thomas Brewsterが「The Pentagon Is Using This $1.2 Billion Startup's AI To Automate Cyberwarfare」と題した記事を公開した。AIスタートアップ「Twenty」が米国防総省向けにサイバー攻撃キャンペーンの自動化システムを提供しており、「サイバー戦争の工業化」という同社の掲げるビジョンが現実のものになりつつあるという内容だ。
「手工業から産業へ」——サイバー戦争の自動化という発想
従来、単一ターゲットへのサイバー作戦は数カ月から数年を要する高度に属人的な営みだった。Twentyが目指すのは、その構造をAIによって根本から変えることだ。共同創業者兼CEOのJoe Linはその変化をこう説明する。
「私たちはサイバー戦争を工業化しようとしている。高度に職人的だった現行プロセスを、産業的にスケールできるものへ移行する。1つずつではなく、数百のターゲットを同時に攻撃できるようになる」
具体的には、ターゲットの特定、偵察(reconnaissance)の実施、侵入後の意思決定といった作業をAIが自動化する。使用するAIモデルはタスクに応じて市販のフロンティアモデルを使い分けており、米軍・情報機関がすでに運用しているモデルも活用する。ただし、脆弱性の調査・悪用にはこれらのツールを使用していないとLinは述べている。
この「工業化」という概念こそが本記事のフックであり、軍事サイバー作戦の経済構造と非対称性を根底から変えうるものとして注目に値する。
評価額12億ドル、唯一の顧客は米国防総省
AIスタートアップ「Twenty」が、Khosla Venturesから3,000万ドルの追加出資を受け、企業評価額が12億ドルに達した。累計調達額は1億6,800万ドル。創業から1年も経たずにこの規模に達した背景には、In-Q-Telからの支援と、唯一の顧客である米国防総省との関係がある。
In-Q-Telは、CIAが1999年に設立した非営利のベンチャーキャピタルで、米国の情報・安全保障コミュニティに資する技術への投資を主目的とする。単なる資金提供にとどまらず、政府機関とのネットワーク形成や調達プロセスへのアクセスにおいても重要な役割を果たすことで知られており、スタートアップにとって防衛・諜報分野への参入を加速させる足がかりとなる機関だ。
同社の現公開契約は数件に限られる。直近では2025年12月に空軍特別捜査局(AFOSI: Air Force Office of Special Investigations)と最大64万ドルの契約を締結しており、国家支援型ハッカー(APT: Advanced Persistent Threat)への対処に向けたサイバーツールを提供している。APTとは、特定の国家や組織に支援された高度な攻撃グループを指す用語で、長期間にわたって標的のネットワークに潜伏し、情報窃取や妨害工作を行うことを特徴とする。また、米サイバー軍(U.S. Cyber Command)との契約は最大1,260万ドル相当だ。機密性の高い契約は公開されないため、実際の規模はこれを上回るとみられる。
AnthropicのモデルがPentagonへ——迂回路としてのTwenty
興味深いのが、AnthropicとPentagonの関係だ。ホワイトハウスがAnthropicをサプライチェーンリスクと認定したことで、国防総省は現在Anthropicから直接購入していない状態にある。Anthropicはこの認定を不服として提訴しており、法廷闘争が継続中だ。この背景には、Anthropicが自社モデルの軍事・諜報目的への転用に慎重な姿勢をとってきたことがあるとされるが、詳細な経緯については元記事および各報道を参照されたい。
しかしTwentyを経由することで、Anthropicのモデルが実質的にサイバー戦に活用される可能性がある。Twentyは複数のフロンティアモデルを組み合わせて運用しており、Anthropicのモデルもその候補に含まれうる構造だ。
また、Khosla VenturesはOpenAIへの最初の機関投資家でもある。元記事によれば、同ファンドのパートナーはOpenAIとの深い関係を持っており、Twentyにとってそのネットワークが有効に機能すると述べており、OpenAIモデルとの連携も今後強化される見通しだ。
Khosla自身も、AnthropicがPentagonとの契約をめぐって公開の場で摩擦を起こした際、「米国は自律型AI兵器に投資すべき」と主張していた人物だ。今回の投資はその姿勢を資金で示したかたちだ。
元米サイバー軍参謀長の見方
先月退任した米サイバー軍前参謀長のDennis Velez大将は、Twentyがこの分野の市場拡大を加速させると予測する。
「LLMと高性能コンピューティングをサイバー作戦全般に活用するうえで、私たちはまだ表面を引っ掻いたばかりだ」
AIを使った軍事サイバー作戦の自動化は、国家間の攻撃・防衛コストの非対称性をさらに拡大させる可能性を持つ。攻撃側がAIによって数百のターゲットを並列処理できる一方、防衛側が同等の自動化を備えていなければ対応コストは非線形に膨らむ。その意味で、Twentyのアプローチは単なるスタートアップの成長譚にとどまらず、国際的なサイバー空間の力学そのものを問い直す問題提起でもある。
詳細はThe Pentagon Is Using This $1.2 Billion Startup's AI To Automate Cyberwarfareを参照していただきたい。