7月21日、Iain Martinが「American Open-Source Labs Think They Can Beat China's Best AI Startups」と題した記事を公開した。この記事では、米国のオープンソース系AIスタートアップがKimiやDeepSeekなど中国勢の台頭に対抗しようとしている動きについて詳しく紹介されている。
Kimi K3の衝撃——中国モデルが市場を席巻
まず押さえておくべき背景として、中国のAIモデルがオープンウェイト(モデルの重みを公開する形式)市場を事実上支配しているという現実がある。
直近の状況は特に顕著だ。LLMマーケットプレイスのOpenRouterによると、過去1ヶ月で最も利用されたモデルの上位5つは、Xiaomi・Tencent・Z-AIといった中国企業のモデルだった。その中でも今最も注目されているのが、北京のMoonshot AIが7月16日にリリースしたKimi K3だ。
Kimi K3は2.8兆パラメータという巨大モデルで、AIリーダーボードのArenaによると、一部のコーディングタスクでOpenAIのトップモデルやAnthropicのFable 5(Anthropicの最新フラッグシップモデルとして記事中に登場)を上回った。価格面でも競争力が際立っており、Kimi K3の料金はAnthropicの同等モデルと比べて約3分の2安く、OpenAIと比べても約3分の1安い。そのリリースは先週金曜、米国市場を動揺させた。現在はMoonshotのサーバー上でのみ動作するが、7月27日にモデルウェイトを公開予定だ。
なお、DeepSeekをはじめとする中国スタートアップは、コードや学習データは非公開のまま「モデルウェイト」だけを公開する。これによりモデルをローカルで動かしたりファインチューニングしたりできるため、OpenAIやAnthropicの閉じたモデルへの依存を嫌う開発者・企業に広く受け入れられている。
Poolsideの反撃——「18ヶ月かけてモデル工場を作った」
この状況に挑む米国勢の一つが、Poolsideだ。元GitHubCTOのJason Warnerが共同創業したこのスタートアップは、2024年10月に5億ドルを調達(バリュエーション30億ドル)して脚光を浴びたが、その後18ヶ月ほど表舞台から姿を消していた。
そのPoolsideが今回、Lagunaという新モデルを引っ提げて戻ってきた。公開ベンチマークでは、米国・中国の競合オープンソースモデルの大半を上回る結果を出している——ただし、Kimi K3だけは例外だ。
LagunaはKimi K3の20分の1のサイズにあたる1,180億パラメータモデル。Warnerはこのサイズのモデルの中では「グローバルリーダー」と主張しつつ、フロンティアラボとの能力差は認めている。
Warnerが強調するのは、この18ヶ月が単なる沈黙ではなかったという点だ。
「従来のモデル構築は職人的なプロセスだ。我々は産業的なモデル構築プロセスを作り上げた」(Jason Warner)
このインフラを「モデル構築工場」と呼び、今後5週間ごとに新バージョンをリリースしていく計画だという。
他の米国挑戦者たち
Poolside以外にも、米国勢の動きは活発だ。
Thinking Machines Lab(元OpenAI CTOのMira Muratiが創業)は先週、初モデル「Inkling」をオープンウェイトで公開した。業界のハイプとは一線を画し、「現時点で最強のモデルではない」と明言しつつ、柔軟性とカスタマイズ性を売りにする。同社は2024年に120億ドルのバリュエーションで20億ドルを調達している。
Reflection AIは、元々コーディングエージェントを手がけていたが、方向転換してオープンソースモデルの構築に注力するスタートアップだ。今年3月に250億ドルのバリュエーションで25億ドルを調達し、ネオクラウドのNebius(Yandexから分離したGPUクラウド企業)と10億ドルのコンピュート契約を締結したが、まだプロダクトはリリースしていない。
フランスのMistralは、「中国でも米国でもない」という立ち位置を武器に、昨年オープンウェイトモデルで2億ドル超の売上を記録した先行事例として注目されている。
政策と資金——米国勢の追い風と不確実性
Axiosによると、トランプ政権の商務省では「米国企業による中国オープンソースモデルの利用を事実上禁止する」措置を議論していたという。これが実現すれば、米国のオープンソース勢には大きな追い風になる。
ホワイトハウスのAIアドバイザーでVCのDavid SacksはXでこう書いた。
「我々はAI政策の重大な転換点にいる。AIモデル収益においてすでに複占状態にある大手クローズドラボは、政府にオープンソースの競合を排除させようとしている」
一方でPoolsideの財務状況には複雑な事情もある。Warner自身、2024年以降は資金調達をしていないと明かす(現在の収益は非公開)。テキサス州でAIデータセンター大手CoreWeaveと共同で進めていた2ギガワット施設「Project Horizon」はデッドラインを守れず白紙に戻り(発表当時のブログ投稿も削除済み)、現在は「PIC(Poolside Infrastructure Company)」という独立事業として継続中だという。
ただし、Poolsideには隠れた資産がある。英国のGPUクラウドスタートアップFluidstackへの投資だ。Fluidstackは月曜日、Leopold Aschenbrennerが主導するヘッジファンド「Situational Awareness」(Aschenbrennerは元OpenAI研究員で、AIの長期的リスクと地政学的影響を論じたエッセイ集『Situational Awareness』で知られる人物)の主導で、7.5億ドルのバリュエーションで8.3億ドルを調達したと発表。ルクセンブルクの企業登記によると、PoolsideはArgo Participation Iを通じてFluidstackの約15%を保有しており、その価値は8.6億ドルに上る計算だ。
米中のAIオープンソース競争は、単なる技術競争を超えて、資金力・政策・地政学が絡み合う構図になっている。Poolside、Thinking Machines、Reflection——どの米国勢が本当に中国モデルと対等に渡り合えるかは、まだ見えていない。
詳細はAmerican Open-Source Labs Think They Can Beat China's Best AI Startupsを参照していただきたい。