7月21日、SoftBank News Editorsが「Rebuilding Systems for the AI Era: SoftBank Corp. CEO Junichi Miyakawa at SoftBank World 2026」と題した記事を公開した。ソフトバンク株式会社CEOの宮川潤一氏がSoftBank World 2026の基調講演で語った内容で、自社700システムの診断で脆弱性1万件超が検出されたという衝撃的な数字を軸に、AI主導のサイバー攻撃時代におけるエンタープライズシステム刷新の必要性を訴えるものだ。「日本の社会インフラ全体が危機にさらされている」という宮川氏の問題提起は、エンタープライズIT担当者に重い課題を突きつけている。
サイバー攻撃のリスクを数値で突きつけた
宮川氏の講演で最も具体的なインパクトを持つのが、自社システムに対して実施した脆弱性診断の結果だ。
ソフトバンクはOpenAIのサイバーセキュリティ技術を活用し、自社が独自にソースコードを管理する700システムを対象に診断を実施。10,500件の脆弱性を検出した。さらに、外部企業向けのサービスとして展開した「Patching as a Service」(OpenAI連携の脆弱性診断・パッチ適用支援サービス)においても、ソースコード1,000万行あたり約280件の脆弱性が既に診断完了した企業で検出されている。診断依頼は137社から受領済みだという。
宮川氏が強調したのは、脆弱性の広がりが「コア業務システムにとどまらない」という点だ。「サイバーモデル」(一定の安全管理のもとでサイバー能力を提供するAIモデル)は、古いソフトウェア、設定ミス、認証の甘さといった複数の脆弱性を横断的につなぎ合わせ、攻撃経路を自動的に特定できる。
「AI主導のサイバー攻撃はもはや仮定の話ではない」と宮川氏は述べた。「サイバーモデルがオープン化されれば(コードや構成要素が公開され、第三者が自由に利用・改変できる状態になれば)、専門知識を持たない個人でも高度な攻撃を実行できるようになる。」
「AI時代のモダナイゼーション」とは何か

「根本から再構築する重要性」を示すスライド。宮川氏はシカゴ大火後の都市再建を引き合いに、既存システムを修繕するのではなくゼロから設計し直す必要性を訴えた。
宮川氏は冒頭で1871年のシカゴ大火を引き合いに出した。「シカゴは焼失した街を単に元通りにするのではなく、ゼロから再建することを選んだ。その決断が超高層ビルの誕生と近代都市の発展の礎となった」と述べ、現在のエンタープライズシステムも同様の発想転換が必要だと指摘した。
宮川氏が提唱する「AI時代のモダナイゼーション」の定義は明確だ。
「システム開発の前提にある伝統的な人間中心の思想をAIファーストに置き換えること。すなわち、AI主導のサイバー攻撃に耐えられるよう、システム設計・運用・ソースコードを変革すること」
従来のエンタープライズシステムは人間を中心に設計されているため、複数チーム・複数ベンダーが絡む設計では入力漏れや統合エラー、コーディングミスが避けられない。「人間には完璧に見えるシステムでも、AIが悪用できる脆弱性が残っている」という指摘は、システム設計者にとって重い課題を突きつけるものだ。
システム全体のモダナイゼーションには時間がかかるため、宮川氏はPatching as a Serviceを「今すぐ踏める最初の一手」として位置づけた。これを「エンタープライズシステムのワクチン」と表現している。同サービスは全国約3,000社を対象に展開を拡大しており、約1,000名の専門人員を配置して提供する予定だという。
Sierraとの独占契約:コールセンターで97%解決率

Sierraのプラットフォームを活用したカスタマー体験変革の概要。ソフトバンクのコールセンターで実施したパイロットでは、AIエージェントが問い合わせ対応を完全自律で完結させるデモが披露された。
講演ではサイバー対策と並んで、AIエージェント型カスタマー体験プラットフォームを提供する米Sierra社との戦略的パートナーシップも発表された。ソフトバンクは日本における独占販売代理店としてSierraのプラットフォームを提供する。
Sierraは元Google CEOのエリック・シュミット氏らが出資することで知られる会話型AIプラットフォーム企業で、Salesforce、WeightWatchers、ADTといったグローバル企業への導入実績を持つ。日本市場への本格参入にあたり、ソフトバンクを独占パートナーとして選定した格好だ。
ソフトバンクのコールセンターで実施したパイロットでは、**問い合わせ解決率97%・顧客満足度スコア93%**という結果が出ている。ただし、元記事にはパイロット期間や対象となった問い合わせ件数の記載がなく、この数値が実運用全体にどの程度適用できるかは現時点では評価が難しい点に留意したい。デモでは、AIエージェントがWi-Fiサービスの料金に関する問い合わせを完全自律で対応。本人確認、契約内容の確認、より適切なプランの提案、手続き用リンクを含むSMS送信まで、人間の介在なしに完結させた。
宮川CEOが訴える「日本インフラ全体の危機」
「AIは大きな恩恵をもたらす一方、サイバー攻撃というダークサイドも持つ」と宮川氏は述べた。自社の脆弱性診断結果を公開した背景には、一企業の問題にとどまらず、日本の社会インフラ全体が同様のリスクにさらされているという危機感がある。企業横断での取り組みを呼びかける宮川氏のメッセージは、個社の対応を促すと同時に、業界全体への問題提起として受け取るべきものだ。
詳細はRebuilding Systems for the AI Era: SoftBank Corp. CEO Junichi Miyakawa at SoftBank World 2026を参照していただきたい。