7月21日、Cyber InsiderのAlex Lekander氏が「AI helped uncover WordPress 'wp2shell' RCE now exploited in attacks」と題した記事を公開した。AIが月額サブスクリプション按分で約25ドル・約10時間という低コストでWordPressコア本体の重大なRCE脆弱性チェーンを発見し、その脆弱性がすでに実攻撃で悪用されている——この事実は、AIが脆弱性リサーチの前提条件を根本から変えつつあることを示す具体的な証拠として、セキュリティコミュニティで注目を集めている。
AIがWordPressのゼロデイを10時間・約25ドルで発見
今回の脆弱性「wp2shell」を発見したのは、セキュリティ企業Searchlight CyberのリサーチャーAdam Kues氏だ。発見のプロセスがまず目を引く。
Kues氏はGPT-5.6 Sol Ultra(※編集部注:本稿執筆時点で公式リリースが確認できないモデル名が元記事に記載されている。OpenAIの最新世代モデルを指すと思われるが、詳細は元記事および公式情報を参照されたい)に対して、WordPress最新安定版のソースコードをクリーンな状態で渡し、コードオーディットを指示した。プロンプトは、難解な数学の問題を解くためのマルチエージェント用リサーチプロンプトを流用したものだ。重要な制約として「チェンジログや既知のパッチとの比較を参照しないこと」「認証なしでRCEに至る現実的な経路を探すこと」を明示している。
結果として、モデルの稼働時間は約10時間、コストは月額200ドルのサブスクリプション按分で約25ドル。この投資でWordPressコアの重大な脆弱性チェーンが得られたことになる。
2つのCVEが組み合わさって完全サイト乗っ取りへ
wp2shellは、2つのCVEを組み合わせた攻撃チェーンだ。
CVE-2026-63030は、WordPress REST APIのバッチエンドポイントにおけるルート・ハンドラの混同バグだ。不正な形式のリクエストを送ることで、WordPressが特定のサブリクエストを誤ったハンドラで検証し、別のハンドラで実行してしまう。バリデーション、権限チェック、ディスパッチの正常な連鎖が崩れる。
CVE-2026-60137は、WP_Query(WordPressのデータベースクエリ抽象レイヤー)におけるSQLインジェクションだ。著者IDの除外に使うパラメータが、配列形式で渡された場合はサニタイズされるが、スカラー値で渡された場合はサニタイズされない。通常のリクエスト処理ではWordPressのバリデーションがその不正入力をブロックするが、CVE-2026-63030のバッチルート混同がそのチェックをバイパスし、未認証の攻撃者がSQLインジェクションを実行できる状態になる。
※編集部注:両CVE番号は2026年付けであり、本稿執筆時点でNVD(National Vulnerability Database)等における公開情報が限られている可能性がある。深刻度の公式指標となるCVSSスコアについても、現時点では元記事に記載がなく、正式なアドバイザリ公開後に確認することを推奨する。
AIが生成したエクスプロイトはさらに複雑だ。WordPressのインメモリポストキャッシュ、oEmbedキャッシュ、テーマカスタマイズのチェンジセット、投稿の親子関係の循環処理、動的生成フックを組み合わせ、一時的に管理者IDを詐称してから元のRESTリクエストを管理者権限で再送信。新たな管理者アカウントを作成し、最終的に悪意あるプラグインをアップロードしてコードを実行するという多段階のチェーンだ。
Kues氏自身も「ネストされたバッチリクエストによるメソッド制限のバイパス」と「parse_requestフックを使って管理者権限が有効な状態でリクエストを再送するという手法」には驚いたと述べている。
サードパーティプラグインではなくWordPressコア自体の問題
今回の脆弱性が特に深刻なのは、WordPressコア本体に存在する点だ。一般にWordPressの脆弱性はプラグインやテーマ起因のものが多く、コア自体の重大な脆弱性は影響範囲が桁違いに広い。W3Techs等の調査によればWordPressは全Webサイトの40%超で使われており、その絶対数は数億規模に達するとされる。「数億サイト」という表現はこの業界横断的なシェア推計に基づくものであり、実際に脆弱なインストール数は適用パッチ状況によって変動する点に留意されたい。
開示フローについて元記事が伝える範囲では、Kues氏はWordPressセキュリティチームへの責任ある開示(Responsible Disclosure)を経ており、修正バージョンのリリース後に技術詳細が公表された。セキュリティ企業のPatchstackは、この脆弱性チェーンが完全なサイト乗っ取りに繋がることを独自に確認し、すでに顧客のログ上で悪用の試みが確認されていると報告している。
対応:今すぐアップデートを
WordPressユーザーは、利用ブランチに応じて以下のいずれかへ即座に更新する必要がある。
- 7.0.2(※編集部注:現在の最新安定版系列は6.x。7.0系は元記事記載の将来バージョンと思われ、リリース時期はWordPress公式リリースアーカイブで確認されたい)
- 6.9.5
- 6.8.6
アップデートに加えて、以下の確認も推奨されている。
- 見覚えのないユーザーアカウントの有無
- 最近インストールされたプラグイン
- 変更されたPHPファイル
- Webサーバーのアクセスログ
- 外部への不審な通信
特に、エクスプロイトの詳細が公開される前にパッチ適用が間に合わなかったシステムは優先的に調査が必要だ。WordPressの自動更新設定については公式ドキュメントも参照されたい。
AIによる脆弱性発見という現実
今回のケースは、AIが脆弱性発見の民主化を加速させていることを具体的に示す事例だ。熟練したリサーチャーが適切なプロンプト設計と組み合わせれば、25ドルのコストで大規模なソフトウェアのコードオーディットが実行可能になった。これは攻撃側・防御側の双方にとって同じ条件が整ったことを意味する。
AIを活用した脆弱性発見の取り組みはこれが初めてではない。Google DeepMindのProject ZeroチームはAIエージェントを使ったバグハンティングの研究を進めており、MicrosoftもSecurity Copilotを通じたコード解析支援を展開している。また、DARPA Cyber Grand Challengeは自律的な脆弱性発見・修正を競うコンテストとして2016年に実施されており、AIによる自動化リサーチの文脈は長く続いている。今回の事例はそうした研究段階の取り組みが、実コストで実運用に近い形に到達したことを示す点で一線を画している。
※編集部の考察:防御側の視点では、同様のAIコードオーディットを自社製品・自社サービスのセキュリティレビューに組み込む動きが今後加速すると見られる。セキュリティチームにとっては、AIを使った継続的コード監査の標準化を検討する時期に差し掛かっているといえる。
詳細はAI helped uncover WordPress 'wp2shell' RCE now exploited in attacksを参照していただきたい。