7月22日、Techstrong.AIが「Bessent Warns Chinese AI Firms Could Face US Sanctions Over IP Theft」と題した記事を公開した。米財務長官スコット・ベッセントが中国AI企業による知的財産侵害を理由に制裁の可能性を警告したこと、およびその技術的・政策的背景について詳しく紹介されている。
Kimi K3が火をつけた対中AI制裁論
発端は中国AIスタートアップMoonshot AIが公開したオープンウェイトモデル「Kimi K3」だ。複数の業界ベンチマークで高いスコアを記録し、米国の主要モデルに匹敵するとして注目を集めた。さらにAlibabaも高い性能を自称するQwen 3シリーズの新モデルを公開した。
競争力のある中国モデルの相次ぐ登場は投資家心理を揺さぶった。シリコンバレーが数兆円規模でAIインフラへの投資を続けるなか、はるかに低コストとされる中国勢が性能面で肉薄してきたからだ。
核心はディスティレーション(蒸留)という手法
トランプ政権が問題視しているのが、ディスティレーション(distillation)と呼ばれる技術だ。大規模モデルの出力結果を使って小規模モデルを訓練する手法で、合法的な用途も多い。しかし米国AI企業側は「他社のプロプライエタリモデルの出力を無断で使い、訓練コストを大幅に削減しながら同等の能力を持つモデルを構築できる」と主張している。
OpenAIとAnthropicはいずれも、中国の競合が自社モデルの出力を無断で利用して開発を加速させたと主張済みだ。
「米国LLMの透かしが中国モデルで見つかった」との主張
ベッセント財務長官の発言で特に注目されるのが次の点だ。「複数の中国AIシステムの中に、米国のLLM由来とみられるウォーターマーク(透かし)が見つかっている」と述べたとされる。ただし、具体的な企業名や技術的な根拠は示されておらず、「今後数週間で精査する」と述べるにとどめた。元記事においても技術的な裏付けは示されておらず、現時点では未確認情報として扱う必要がある。
ここでいう「ウォーターマーク(透かし)」とは、LLMの出力テキストに統計的なパターンを埋め込む技術を指す。人間には判別しにくい形で特定のトークン選択に偏りを与えることで、出力がどのモデルに由来するかを事後的に識別できるようにするものだ。もし中国モデルの出力に米国製LLMのウォーターマークが検出されたとすれば、訓練データとして無断利用した痕跡となりうる——というのがベッセント発言の含意だが、検出手法の信頼性や具体的な証拠については言及がなく、不明な部分が大きい。
政策面での対応として、財務長官は2つの方向性を示した。
- 制裁(Sanctions)の発動:知的財産を侵害したと認定された中国AI企業を対象とする
- 開示義務の導入:中国製AIモデルを採用する企業に対し、その旨をユーザーへ開示させる。ベッセントは「模倣品に産地を表示させるようなもの」と表現した
審査は財務省だけでなく通商代表部も
対中AI審査は財務省単独の動きではない。米国通商代表部(USTR)のジェイミソン・グリア代表も、中国が不公正な競争慣行でAI分野の地位を強化していないかを評価中だと述べた。
9月に米中AI協議、ベッセントも参加予定
一連の対立は外交テーブルにも持ち込まれる見通しだ。米中両国は9月にAIをテーマとした協議を予定しており、ベッセントも参加する方向で調整が進んでいる。
皮肉な構図:米国AI企業も訓練データで訴訟抱え
対中制裁を主張する側の米国AI企業も、訓練データの出典をめぐって法的リスクを抱えている点は見落とせない。Anthropicは著作権のある書籍を無断で訓練データに使ったとして著者らから訴えられ、15億ドル(約2,200億円)の和解に合意したと報じられている。
※編集部の考察:この和解報道は元記事に明示的に含まれていない情報であり、文脈補足として付記している。制裁を求める側が自身も知的財産問題を抱えているという構図が、政策論議をより複雑にしていることは確かだ。
詳細はBessent Warns Chinese AI Firms Could Face US Sanctions Over IP Theftを参照していただきたい。