7月22日、RuntimeWireが「Jack Dorsey launches Buzz to combine team chat, AI agents and Git hosting」と題した記事を公開した。Jack DorseyのBlockが開発したオープンソースワークスペース「Buzz」は、AIエージェントを人間の従業員と同列の「メンバー」として扱うという設計思想を核に据えている。チャット・Gitホスティング・ワークフロー自動化を単一のイベントシステムに統合し、SlackとGitHubへの依存を一括して置き換えることを目指すという構想は、ツールリリースの域を超え、Dorseyが主張してきた「AIが組織の調整方法そのものを変える」という組織論の具体化でもある。
人間とAIエージェントが同じ「メンバー」として扱われる
Buzzの最大の特徴は、AIエージェントと人間の従業員を同一の身元管理構造のもとに置くという設計思想にある。
Buzzは自己ホスト可能な**Nostrリレー(分散型ソーシャルプロトコル)を基盤に構築されており、メッセージ、リアクション、ワークフローのステップ、コードイベント、承認操作など、あらゆるアクションが暗号署名されたイベント**として記録される。人間の従業員とAIエージェントは同じ構造のIDを持ち、それぞれ独自の鍵ペア、チャンネルメンバーシップ、監査証跡が付与される。
この設計によりエージェントは、従来型のチャットボットではなくワークスペースの「メンバー」として機能する。Blockの公式ドキュメントによれば、エージェントは過去の議論の検索、リポジトリのオープン、パッチの提出・コードレビュー、ワークフローの実行、共有キャンバスの編集、チャンネルの作成といった操作を担える。これらはいずれもチャットボットへの「外付け」機能ではなく、人間のメンバーと同一の操作権限として設計されている点が既存のAI統合とは一線を画す。
Buzzにはエージェント向けのCLIが含まれており、Goose、Codex、Claude Code向けのハーネスが用意されている。使用するLLMモデルはワークスペースから切り離して選択できる。
Gitホスティングもチャットと同じ「イベント」に統合
Buzzのもう一つの核心は、Git連携をリポジトリ通知の転送にとどめない点だ。プロジェクト仕様によると、Git Smart HTTPを使ったソフトウェアフォージ機能が内蔵されており、フィーチャーブランチごとに専用チャンネルが作られ、パッチ、CI結果、レビューコメント、マージ判断が一つのレコードに集約される。リポジトリ、議論、ワークフロー履歴は単一の検索インデックスを共有する。
現時点で動作する機能は、チャンネル、スレッド、DM、共有キャンバス、メディア、検索、監査ログ、デスクトップアプリ、YAMLベースのワークフローだ。パッケージビルドはmacOS・Windows・Linux向けに提供されており、ライセンスはApache 2.0。最新のデスクトップリリースはバージョン0.4.21(7月21日リリース)で、エージェントコントロール、認証、ワークスペースオンボーディングに関する修正と追加が含まれる。
「分散型」の実態:リレーは単一サーバー
Dorseyは「分散型・自己主権型」と表現しているが、Blockのアーキテクチャドキュメントはより正確な線引きをしている。現時点でBuzzにはP2P通信、ゴシッププロトコル、リレー間のレプリケーションは存在しない。ワークスペース内のすべての読み書きは単一のリレーを通過し、そのリレーがユーザー認証・署名検証・イベント保存・更新配信を担う。
BuzzにおけるDecentralized(分散)の意味は、「デプロイメントとデータの所有」にある。組織は自前のリレーを運用し、ドメインとデータを保持し、特定のホストサービスに依存しない移植可能なNostr鍵ペアを使える。一方で、自己ホストはインフラの管理責任(可用性、バックアップ、セキュリティ、アップグレード)を組織が負うことを意味する。署名イベントモデルは帰責性と監査証跡を提供するが、サーバーの運用リスクを消すわけではない。
SlackやGitHubの代替として評価する場合、この区別は重要だ。
背景:DorseyとBlockのエージェント中心思想
今回の発表は単なるツールリリースではなく、Dorseyが一貫して主張してきた組織論の具体化でもある。DorseyはSequoiaのRoelof Bothaとの共同エッセイ(Time to Build、Sequoia Capitalのブログ媒体に掲載)の中で「AIは生産性の付加機能ではなく、組織の調整方法そのものを変えるべきだ」と論じており、BuzzはそのインフラとなることをBlockが狙っている。Blockの公開リポジトリには、Block自身のリレーとエージェントプロバイダー向けに設定された内部ビルドも記録されており、Blockが最初のユーザー事例として位置付けられている。
現状:まだ開発途上
Blockのドキュメント自体が繰り返し「未完成」と明記している通り、モバイルクライアントは開発中、プッシュ通知は未実装、ワークフロー承認ゲートにはDB・API・インターフェースの各コンポーネントはあるものの実行パスは未完成だ。採用状況、価格設定、外部顧客の数字は一切公開されていない。
チャット・コードホスティング・ワークフロー自動化・プロジェクト検索・エージェントオーケストレーションをまとめて一つのイベントシステムに置き換えようという構想は、エージェントに有用なコンテキストとスコープを与える統合コストを下げる可能性がある。ただし、成熟した既存製品群(Slack、GitHub等)は各ツールを独立して交換できる柔軟性を持つのに対し、Buzzはすべてを一つのリレーに集約する設計であり、移行コストの観点から一長一短がある。
Blockコミュニティ外のエンジニアがこの重荷を一つのリレーに乗せることを望むかどうか——それがBuzzの最初の試練となる。
詳細はJack Dorsey launches Buzz to combine team chat, AI agents and Git hostingを参照していただきたい。