7月20日、The Next Webが「Decart's Lucy 2.5 unlocks new live video effects, but physical AI is the real winner」と題した記事を公開した。AIスタートアップDecartが最新のライブ映像モデル「Lucy 2.5」をリリースした。表向きはリアルタイムVFX生成ツールだが、Decartが本当に狙っているのはロボティクス訓練向けの物理AIシミュレーションという、より大きな市場だ。
本命はロボティクス訓練への応用
Lucy 2.5の表向きの売りはリアルタイムVFXだが、Decartが本当に狙っているのは物理AI(Physical AI)の領域だ。
同社はシミュレーションエンジン「Oasis 3」を用いて、ロボティクス訓練向けの環境生成に取り組んでいる。Lucy 2.5が向上させた物理演算エンジンと映像精度は、そのままOasis 3の訓練シミュレーションの品質向上に直結する。
元記事が挙げる具体的なユースケースは以下のとおりだ:
- 自律走行車が濃霧でカメラ視界を失った状況での動作テスト
- ドローンが竜巻を回避する極端シナリオの生成
- 産業用ロボットが施設内で爆発が起きた際の対応訓練
これらは、現実では再現コストが高すぎるか危険すぎるシナリオであり、精度の高いシミュレーション映像で代替できる価値は大きい。Lucy 2.5とOasis 3を組み合わせることで、より予測不能で現実に近い訓練環境を生成できるという構想だ。
Lucy 2.5で何が変わったか
映像生成モデルとしての新機能も整理しておく。元記事によれば前バージョンのLucy 2は2025年2月にリリースされており、Lucy 2.5はわずか5ヶ月での大幅アップデートとなる。
リアルタイムVFX生成が最大の追加機能だ。爆発・炎・津波といったエフェクトを、ライブ映像に対してプロンプト指示だけでリアルタイムに合成できる。後処理(ポストプロダクション)を必要とせず、撮影しながらエフェクトを埋め込む形になる。チョコレートが溶けるような外見への変換なども可能だとされている。
精度面では、AIが生成した要素の配置と挙動をより細かく制御できるようになった。不要なオブジェクトや人物の即時消去も可能で、編集痕跡(アーティファクト)が残らないという。
これらの機能はすでにDecart APIを通じて利用可能だ。
元記事が挙げる活用シーンとしては、広告・マーケティングでのパーソナライズ動画生成、ECサイトのバーチャル試着(カメラ映像に商品を重ねてリアルタイム合成)などが挙げられている。
急速に整備された資金・インフラ基盤
Decartはここ数ヶ月で急速にインフラと資金調達の両面を固めてきた。
- 2024年12月:AWSと提携し、Amazon BedrockサービスおよびTrainiumプロセッサを活用してLucyをプラグアンドプレイ製品として提供開始
- 2025年3月:ComcastとNvidiaがDecartと提携し、Comcastの全米エッジアーキテクチャを基盤とした分散AIグリッドの構築を発表
- 2025年5月:3億ドルの資金調達を完了。出資者にはAmazonのVCアーム、Nvidia、Adobe Ventures、Sequoia Capitalなどが名を連ねる
競合として元記事が挙げるのはRunway、Luma AI、Pika Labs、Googleだ。Decartはこれらと同じ映像生成AI市場に参入しつつ、ロボティクス訓練インフラという隣接領域への展開でも大手各社との差別化を図っている。
ワールドモデルという文脈
ワールドモデルとは、物理的な現実世界の環境をAIが内部的にシミュレートするための生成モデルのことで、AI映像生成と技術的に密接に関連している。自律ロボットや自動運転の開発において、現実に近いシミュレーション環境を大量に生成するために使われる技術だ。Meta AIが公開したV-JEPAや、Google DeepMindのGenie 2など、大手各社も同分野への投資を強化しており、ワールドモデルはロボティクスAIの中核技術として業界全体で注目度が高まっている。
Decartはこの分野でOasis 3を軸に実績を積み上げており、Lucy 2.5の物理演算精度の向上はそのまま訓練環境の品質に波及する設計になっている。映像生成スタートアップとしてスタートしながら、ロボティクス訓練インフラへと軸足を移しつつある点が、同社の動向で最も注視すべき部分だ。
詳細はDecart's Lucy 2.5 unlocks new live video effects, but physical AI is the real winnerを参照していただきたい。