7月20日、Vox.comがJasmine Sunの執筆による「How public opinion is turning against AI」と題した記事を公開した。AIへの世論の反発が「技術への不満」ではなく「エリート支配への抵抗」という政治的構造を帯びつつある現象について詳しく論じている。
AIバッシングの本質は「反エリート感情」だ
AIへの反発を語るとき、多くの人は「ChatGPTが使えない」「精度が低い」といった技術的な不満を想像する。しかし、サンフランシスコでAI業界を取材するJasmine Sunが提示するフレームはまったく異なる。
Sunは「AIポピュリズム」という概念を提唱している。AIを単なる技術としてではなく、「抵抗すべきエリートの政治的プロジェクト」として捉える世界観だ。データセンター建設への抗議運動、Waymo(自律走行タクシー)への反発、LLMが生成する低品質コンテンツ(いわゆる「スラム」)への怒り——こうした不満の根底にある問いは、「ChatGPTは自分の役に立つか?」ではなく、「なぜ巨大企業と説明責任のない億万長者が、民主的な合意なしに自分の街と生活を変えられるのか?」という問いだ。
これは古典的なAI安全論(技術的リスクの議論)とは異なる。権力集中への反発、反エリートの感情——まさにポピュリズムの構造である。
「ルッダイト」の再来か:民主的チャンネルの欠如
Sunが危惧するのは、この感情が暴力に転化しつつある点だ。元記事によれば、OpenAIのCEO Sam AltmanはArson(放火)と銃撃を数日以内に受けたとされる。インディアナ州の市議会議員はデータセンター誘致に賛成票を投じた翌朝、自宅に銃弾と「データセンターはいらない」というメモを受けた。
なぜ抗議が暴力に飛躍するのか。Sunの分析はシンプルだ。制度的なチャンネルが機能していないとき、反発は拡散し、不安定になる。
20世紀の工場自動化では、強力な労働組合が存在した。企業が「機械を導入する」と言えば、組合は「賃上げ」「労働時間短縮」「早期退職」と交渉のテーブルについた。移行プロセスへの参加権があったからこそ、人々は自動化を「みんなの利益になるもの」として受け入れた。
現在のAIには、そのチャンネルがない。AI化が進む産業の多くは労働組合を持たず、規制の民主的プロセスも機能しているとは言い難い。Sunが参照するのはオックスフォードの経済学者Carl Benedikt Freyの著書『The Technology Trap』だ。Freyは欧州・中国・米国など多数の歴史的事例を分析し、「社会福祉政策(最低賃金引上げ、再分配)を伴う自動化は受け入れられやすく、そうでない自動化は激しい抵抗を招く」という結論を導いた。ルッダイト運動(19世紀初頭の英国で、自動織機に反発した職人たちが機械を打ち壊した運動)はその典型例だ。
シリコンバレーはようやく「本気の問題」と認識し始めた
6カ月前まで、シリコンバレーの標準的な反応は「技術はいつも反発を生む。人々はインターネットと同様に慣れる」だった。その認識が変わりつつある、とSunは言う。
ニューヨーク州が全米初のデータセンター建設モラトリアム(一時停止措置)を導入したと元記事は報じている。OpenAIやAnthropicが雇用自動化に関する経済政策提言を出し始めたのも、こうした世論の圧力への対応だ。
トランプ政権がAI規制を10年間すべての州で禁止する連邦法案をオムニバス法案に紛れ込ませようとした動きも、議会議員たちの反発で阻止された。左右の超党派連合が結集した点は、AIへの懸念がイデオロギーを超えていることを示している。
中国に「AIポピュリズム」が存在しない理由
興味深い比較として、Sunは中国を取り上げる。若年失業率が高く、工場の無人化が急速に進む中国には、ポピュリズム的反発の「条件」が揃っているはずだ。しかし実際には反発はほぼ存在しない。
理由は二つ。第一に、中国政府は国内の社会安定を最優先とし、抗議の芽は即座に摘まれる。第二に、多くの中国人にとって技術革新は「貧困からの脱出」と一体だった。高速鉄道、スマートフォン、EC——技術は常に生活水準の向上と結びついてきた。AIも「止めるものか?」ではなく「どう活用して経済的に上を目指すか?」という文脈で語られる。
Sunの90歳の祖父の言葉が象徴的だ。「介護ロボットがいれば子供に頼らず自立できる。ぜひほしい」と言う。技術を個人の自由を拡張するツールとして捉える姿勢は、米国の「エリートに搾取される」という感覚とは対照的だ。
2028年大統領選挙が試金石になる
Sunは、この問題が2028年の大統領選でAIが争点の中心になると予測する。AIポピュリズムは、規制論議を超えて、政治的動員の軸になりうる。制度チャンネルが機能しないと感じる人々が増えれば、暴力を含む「非制度的」行動がさらに増えるリスクもある。
データセンターのモラトリアム、規制をめぐる攻防、卒業式でのAI企業への罵声、そして放火・銃撃といった実力行使——これらはすべて、民主的な参加なき技術的変革がもたらす摩擦の表れだ、とSunは見る。
詳細はHow public opinion is turning against AIを参照していただきたい。