7月20日、The Next Webが「European Parliament builds its own AI platform for MEPs」と題した記事を公開した。欧州議会がMEP(欧州議会議員)および職員向けに独自のAIプラットフォームを構築し、OpenAI・Meta・Anthropic・Mistralのモデルを安全な環境で提供しようとしている。AI法の成立を主導した立法機関が、自分たち自身のAI利用ガバナンスをどう設計するか——その模索の現在地を伝える記事だ。
「AIスロップ」に悩む立法機関が選んだ対策
欧州議会は今、皮肉な問題を抱えている。議員や職員がこっそりChatGPTなどの公開チャットボットで法案や修正案を書いている。これを制御するために、議会が選んだ答えは「公式のAIプラットフォームを作ること」だ。
そのプラットフォームの名称はEPGenAI Hub。現在テスト中で、Politicoの報道によれば2025年9月のロールアウト開始が見込まれていた(元記事の公開は2025年7月20日付であり、本稿執筆時点でのロールアウト状況は元記事に明示されていない)。
問題の深刻さは数字に表れている。現在、議会スタッフの約20%にあたる2,100人が毎日AIを使っている。委員会の議長らは今月の会合で、MEPやアシスタントが修正案などの立法作業にAIを多用していると警鐘を鳴らした。兆候は見てとれるという——翻訳が必要な修正案の急増、見慣れた文体のパターン、そして存在しない法律への誤った参照(いわゆるハルシネーション)。
EU AI法の成立を主導したBrando Benifei議員は次のように述べている。
「欧州議会はAIが生成した低品質コンテンツや誤解を招くAI生成コンテンツと無縁ではなかった。AI法の透明性ルールが適用される中、MEPは率先して模範を示さなければならない」
※「AIスロップ(AI slop)」とは、AIが大量生成した質の低いコンテンツを指す俗語。誤情報を含む文章や没個性的な文体が量産される現象を批判的に表現する際に使われる。
EPGenAI Hubの仕組み:感度に応じてモデルを使い分ける
このプラットフォームの設計で興味深いのは、タスクの機密性に応じてモデルを選べる構成にある点だ。
- 議会内部システムで動作するモデル:MetaのLlama、OpenAIのオープンウェイトモデル、Mistral Small
- 外部にホストされる高機能サービス:ChatGPT、AnthropicのClaude Sonnet
機密度の高い作業には内部ホストのモデルを使い、外部サービスへの機密情報の流出を防ぐ構造になっている。職員向けにはすでにワークショップも開催されており、「よりスマートに、より速く働く」ためのツールとして紹介されているという。
ガバナンスはまだ追いついていない
技術的な整備とは対照的に、MEP向けのルール面は遅れている。職員向けのルールはすでに2024年4月から存在しており、AI支援作業へのラベル付けや公開AIツールへの機密情報入力の禁止が義務づけられている(現在改訂中)。一方、MEPには修正案やスピーチにAIを使ったことを開示する義務がまだない。委員会議長らは事務総長にガイドライン策定を求めたが、その権限は憲法問題委員会に委ねられる可能性があり、議会規則の全面見直しが必要になるかもしれないという状況だ。
アイルランドのBarry Andrews議員(Renew Europe所属)は懸念を示しつつ、現実も認めている。
「同僚が質問、スピーチ、修正案の起草にAIを使っていることは明らかだ。私たちの業務量を考えれば十分理解できる。ただ個人的には、これらは有権者が私たちに期待して選んだ民主主義の核心的機能だと思っている」
「デジタル主権」との矛盾
見過ごせないのは、EUが米国テクノロジーへの依存脱却を掲げる中で、このプラットフォームがOpenAI・Anthropicといった米国企業のモデルに大きく依存している点だ。
欧州議会は一方で、Google検索をフランスのQwantに切り替えたり、データ保護上の懸念からMEPのタブレット端末の組み込みAI機能をオフにしたりしている。そのEUが、米国AI企業への扉をさらに広く開けようとしている格好だ。
ただし、提供モデルは現在も見直し中だとしている。欧州委員会が最近契約したクラウドプロバイダーを通じて、オープンソースモデルやEU域内のソブリンモデルも利用できるようになりつつある。欧州のAIルールブックを書いている機関自身が、そのAIの使い方をまだ模索しているというのが現在地だ。
詳細はEuropean Parliament builds its own AI platform for MEPsを参照していただきたい。