7月20日、Dataconomyが「EU orders Google to open Android and search data to rival AI services」と題した記事を公開した。EUがGoogleに対してAndroidの11機能と検索データを競合AIサービスへ開放するよう義務付ける拘束力ある決定を下したという内容で、違反時には最大350億ドル規模の制裁金が科される可能性がある。AI検索・アシスタント市場の競争構図を根本から塗り替えかねない今回の決定は、デジタル市場法(DMA)の執行において最も踏み込んだ事例の一つと位置付けられる。
EUがGoogleに突きつけた2つの義務
欧州委員会は7月16日、デジタル市場法(DMA)に基づき、Googleに対して2件の拘束力ある決定を発出した。
1つ目はAndroidの機能開放。Googleは競合AIアシスタントに対し、Androidの11の機能へのアクセスを許可しなければならない。これにより、競合サービスはタクシーの予約や音声コマンドによるメッセージ返信といったタスクをAndroid上で実行できるようになる。
実装スケジュールは以下のとおりだ:
- 2027年2月:センシティブな機能に関する資格条件のドラフト公開
- 2027年5月:競合開発者からの申請受付開始
- 2027年8月1日:Android 18での変更実装
- 2028年8月:同時ウェイクワード(複数のアシスタントが同時に起動するための呼びかけ語)のサポート
2つ目は検索データの共有。Googleは自社の検索サービス改善に使用している匿名化済みデータを、2027年1月から対象となるサードパーティ検索エンジンおよびAIチャットボットと共有することが義務付けられる。データ共有には多層的な匿名化フレームワーク、価格モデル、サイバーセキュリティリスクを重視した審査プロセスが設けられる。
なぜこれが競争構図を変えるのか
今回の決定の背景にあるのは、Googleが検索データにおいて競合他社には追いつけない優位性を持っているという欧州委員会の認識だ。Googleの検索シェアと膨大なクエリデータは、AI検索・AIアシスタント開発において構造的な参入障壁となっている。
DMAはこうした「ゲートキーパー」企業の市場支配力を規制するために2022年に施行された法律であり、年間売上75億ユーロ以上・月間アクティブユーザー4500万人以上といった基準を満たす大手プラットフォームを対象とする。Googleはその代表的な指定企業の一つだ。
EUによるGoogle制裁の歴史は長い。2018年には、GoogleがAndroidメーカーに対して自社検索エンジンとChromeのプリインストールを強制したとして、欧州委員会が約43億ユーロの制裁金を科した(参照:欧州委員会プレスリリース)。今回の決定はDMAという新たな法的枠組みのもとで行われるものだが、その問題意識はAndroid時代の独禁調査から一貫している。
検索データの開放が実現すれば、恩恵を受けるのはGoogleと競合するAI検索サービスだ。Perplexity AIやYou.comといった新興AI検索エンジンは、Googleが蓄積してきた大規模クエリデータへのアクセスなしにサービスを構築してきた。共有データが利用可能になれば、これらのサービスの検索品質・回答精度が向上し、Googleとの差が縮まる可能性がある。
※編集部の考察:今回の決定はGoogleにとどまらず、DMAのゲートキーパーに指定されているApple、Meta、Amazonといった他社にも間接的な影響を与えうる。欧州委員会が「データ共有の強制」という手段を有効な執行ツールとして確立すれば、他のゲートキーパー企業に対する同種の決定が続く可能性は否定できない。
Googleの反論
AndroidのプレジデントであるSameer Samatは今回の規制を批判し、欧州委員会は「間違った方向に進んでいる」と述べた。またGoogleは、ユーザーはすでにデバイス上でアシスタントを切り替える手段を持っており、今回の変更はユーザーのプライバシーとセキュリティを損なう可能性があると主張している。
検索データの共有についても、Googleは匿名化処理の限界やサイバーセキュリティリスクを懸念材料として挙げているとみられる。欧州委員会側はこれらのリスクに対応する多層的なフレームワークを設けるとしているが、実装段階での摩擦は避けられないだろう。
罰則は最大「年間売上の10%」
今回の決定は拘束力を持つが、現時点では罰金は含まれていない。ただし、Googleが遵守しない場合、欧州委員会はGoogleの全世界年間売上の最大10%に相当する制裁金を科すことができる。Googleの2024年の売上は約3500億ドル規模であるため、その10%は最大約350億ドルに相当する計算になる。これは2018年のAndroid制裁金(約43億ユーロ)を大幅に上回る水準であり、DMAが従来の独禁規制よりも強力な抑止力を持っていることを示している。
今後の焦点は、Googleが2027年の各期限までに要件を満たした実装を行えるかどうか、そして競合企業が実際にどの程度のデータアクセスを得られるかという点に移る。
詳細はEU orders Google to open Android and search data to rival AI servicesを参照していただきたい。