7月20日、The Next Webが「Current AI is building a public alternative to Big Tech AI」と題した記事を公開した。フランス政府やDeepMind、Salesforceなどの支援を受けた非営利組織「Current AI」が、Big TechのAIに対抗する「公共的なAIインフラ」を構築しようとしている取り組みについて詳しく紹介している。
「World Wide Webのように、誰でも無料で」
Current AIのCEOであるAyah Bdeir(アヤ・ブデイル)が掲げるビジョンはシンプルだ。「AIがあらゆる人の生活を変えるなら、公共的な代替手段が必要だ。World Wide Webのように、誰でも、無料で使えるものが」。
この組織は2025年初頭、フランスのAI Action Summitで始動した。AI Action Summitは2025年2月にパリで開催された国際的なAI政策サミットであり、各国政府や主要テック企業が一堂に会した場として知られる。フランス政府が1億ユーロを拠出し、Ford財団、MacArthur財団、DeepMind、Salesforceが名を連ねた。現時点での資金コミットメントは総額4億ドル超に達しており、5年間で25億ドルの調達を目指している。
重要なのは、これらの支援者が「投資家」ではなく「寄付者(funders)」であるという点だ。リターンを求めない構造は、Big Tech主導の商業AIとの最大の差別点である。BdeirはMozillaのAI戦略を担当した後この組織に参画しており、以前は教育用ハードウェア企業「littleBits」を創業した人物でもある。
最初の焦点は「言語」
Current AIが最初に取り組む課題は、世界の言語の多様性だ。現在話されている言語の半数が消滅の危機にあり、大規模AIモデルは英語に偏重している。BdeirはBig Techの多言語対応についても批判的だ。「企業は市場を拡大するために多言語モデルを作るが、コミュニティの同意や文脈を無視している」。一部の先住民族の言語では、コミュニティが何も合意していないうちに、宣教師による聖書翻訳がトレーニングデータとして使われてしまっているという指摘は生々しい。
具体的な成果として、インド政府の言語部門と共同開発した「Suno Sutra」がある。手のひらサイズのオフラインデバイスで、インターネット不要で22のインド言語でAIが動作する。コードはオープンソース化されており、他者が上に構築できる。農村部でスマホも持てないユーザーを対象としたアーキテクチャ選択は、Big Techのアプローチとは対極にある。
資金の使い道と現在地
先月、Current AIは最初のグラントとして320万ドル(約4.8億円)をケニア、レバノン、ブラジルのアマゾン地域の4つの組織に配分した。内容は以下の通りだ。
- アフリカの50以上の言語のデータセット構築
- アマゾン先住民族のデータを外部に出さずに域内で管理するオフラインツール
- AIシステムの監査ツール
「320万ドルで何が変わるのか」という疑問に対し、Bdeirはこう返す。「スケールだけが指標ではない。それはBig Techのパラダイムだ」。
オープンスタック全体の構築へ
より大きな賭けは、チップからアプリまでのフルオープンスタックの構築だ。今月ジュネーブで、Hugging Face、Mozilla、MIT Media Labなど10組織が7週間で共同構築したオープンソースチャットボット「Alpha Chat」をローンチした。各組織がモデル、安全性ツール、計算リソースを持ち寄る分散型の開発モデルは、Big Techの垂直統合型開発とは異なるアプローチだ。
また、日本のSakana AI(東京を拠点とする生成AI研究機関)とも提携し、日本語およびグローバルサウスのコミュニティ向けの共有オープンスタック構築を進めている。
非営利組織が、モデルを無料で公開してシェア獲得を狙う商業プレイヤーと戦えるかは未知数だ。Current AIの答えは「それでも公共的な選択肢を作ることに意味がある」という立場である。
詳細はCurrent AI is building a public alternative to Big Tech AIを参照していただきたい。