7月20日、CNBCが「TSMC is accelerating Arizona factory buildout to capitalize on AI 'megatrend,' CFO says」と題した記事を公開した。TSMCがAI需要の長期的拡大を背景にアリゾナ州の半導体工場への投資を加速させ、CFOがその戦略的意図を語った内容を詳しく伝えている。
総投資額2,650億ドルへ——「競合に付け入る隙を与えない」
TSMCは今回、アリゾナ州の工場拡張に追加で1,000億ドル(約15兆円)を投じることを発表した。これにより、アリゾナへの投資総額は2,650億ドルに達する。単一の半導体メーカーによる米国内投資としては前例のない規模だ。
この決断の背景をCFOのWendell Huangが率直に説明している。
「この強固な構造的・複数年にわたる需要を目の当たりにしており、競合他社に付け入る隙を与えるつもりはない。メガトレンドが正しい方向に向かっている限り、株主に対して収益性の高い成長を届け続けられる」
— Wendell Huang, TSMC CFO(CNBCとの単独インタビューより)
原文の "leave no room for others" は「競合に余地を与えない」という戦略的意図を端的に示した表現だ。「複数年にわたる需要のメガトレンド」とは、AIの学習・推論に使われる高性能チップへの旺盛な需要を指す。NVIDIAやApple、AMDといった主要顧客がTSMCの最先端プロセスに依存しており、その需要が当面衰えないとTSMC側は判断している。
4nmから先端プロセスへの移行と2nmの立ち上げ
増大する需要に対応するため、TSMCはアリゾナ工場における製造プロセスの世代更新を加速している。ナノメートルとはチップ上のトランジスタ1個のサイズを指す指標で、数値が小さいほど同じ面積により多くのトランジスタを詰め込め、消費電力あたりの性能が向上する。
アリゾナのPhase 1は4nmプロセスでの製造がすでに稼働中だ。Huangは「今後数四半期でさらに規模が拡大する」と述べた。並行して、より微細な3nmプロセスへの転換も進められており、次世代フェーズに向けた製造ラインの整備が急ピッチで進んでいる。
さらに、2nmプロセスが第2四半期から初めて売上貢献を開始しており、第3四半期以降の主要な収益源として位置づけられている。最先端プロセスが実際の量産フェーズに入ったことを意味する。各プロセスノードの技術的詳細についてはTSMCの公式プロセス技術ページも参照されたい。
米国での製造コストは台湾の4〜5倍
当然ながら課題もある。Huangは、米国でのファブ建設・運営コストが台湾の4〜5倍に上ることを認めた。海外拠点の規模拡大に伴い、短期的には収益率の希薄化が避けられないという。
それでも投資を続ける理由として、Huangは米国政府の強力な支援と顧客側の需要を挙げている。米国ではCHIPS・科学法(CHIPS and Science Act)による補助金制度が整備されており、TSMCを含む半導体メーカーの国内投資を後押しする枠組みが機能している。今回の1,000億ドルの追加投資は、前工程のウェーハファブだけでなく、後工程の先端パッケージングファブにも充てられる予定だ。先端パッケージングとは、HBMメモリなど複数のチップを一体化して実装する技術で、AI向けGPUに不可欠な工程として需要が急増している。
中国向け売上は全体の8%、規制遵守を強調
地政学的リスクについてもHuangは言及した。中国顧客からの売上は**全体の約8%**を占めており、TSMCは引き続き輸出規制を遵守しながら中国市場向けの供給を続けるとしている。
また、ソニーとの合弁によるイメージセンサー向け製造事業についても触れ、これをスペシャルティ(特定用途向け)技術における長期的な顧客支援戦略の一環と位置づけた。この合弁はTSMCが日本に設立したJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)とは別に、ソニーセミコンダクタソリューションズとの協業を指しており、CMOSイメージセンサー向けの特化した製造能力の提供を目的としている。
株価と業績
TSMCの株価は決算発表後に一時1%超上昇したものの、翌金曜日には7%下落した。Huangはこの下落の具体的な要因については言及しておらず、「我々が管理できるのはビジネスのファンダメンタルズに集中することだけだ」と述べるにとどめた。なお、年初来では約48%上昇しており、市場全体のAI関連株への期待を反映した水準にある。
詳細はTSMC is accelerating Arizona factory buildout to capitalize on AI 'megatrend,' CFO saysを参照していただきたい。