7月21日、Los Angeles Timesが「DeepMind chief urges Washington to back global AI watchdog as frontier models raise security fears」と題した記事を公開した。Google DeepMindのCEO・Demis Hassabisがフロンティアモデルのリリース前審査を担う国際的なAI監視機関の設立を提唱し、来週ワシントンで米政策立案者への働きかけを行う計画だ。
Anthropicの「Mythos」が引き金に
Hassabisが今回の提案を公開に踏み切った直接のきっかけは、AnthropicのAIモデル「Mythos」が示した高度なサイバーセキュリティ能力だ。MythosはAnthropicが開発した高性能フロンティアモデルで、元記事によれば特にセキュリティ上のリスクを想起させる能力を備えているとされる。Hassabisはこれを「社会への警告射撃(warning shot)」と表現した。
「バイオセキュリティ上の新たな脅威となりうるリスクが迫っている」とHassabisは述べており、現時点ではモデルの能力が十分ではないとしながらも、「数年後には到達しうる」と危機感を示した。
この発言は単なる懸念表明ではない。HassabisはこのフレームワークをAnthropicのDario Amodei、OpenAIのSam Altman、さらには事実上すべての主要AIラボのCEOに事前に共有し、フィードバックを得た上で公開した。Altmanはこの提案を「thoughtful(思慮深い)」と評価。xAI創業者のElon Muskも「議論の出発点として良い」と述べており、主要プレイヤーからの初期支持は幅広い。
提案の骨格:FINRAをモデルに
Hassabisの提案は、米国の金融業規制機構(FINRA)をモデルにした監視体制の構築を目指す。FINRAは証券業界の自主規制機関であり、政府機関とは独立した立場で業界を監督する仕組みだ。AIガバナンスにおいても同様に、業界主導でありながら独立性を担保した機関を想定している。
具体的な内容は以下の通りだ。
- 審査対象:リリース前のフロンティアモデル(最先端AI)
- 審査担当者:独立した技術専門家
- 資金提供:主要AI企業が負担
- 審査期間:最長30日間
- 強化オプション:状況の深刻度に応じて、主要ラボ間の開発ペース協調減速も含めたエスカレーション措置を設ける
Hassabisは「アドホックな対応は長期的に持続不可能だ」とも述べており、現在もDeepMindが新モデルをトレーニングする際には政府やAIセキュリティ機関と協議しているとした。
政治的現実:楽観と障壁
この提案が実現するかどうかは不透明だ。
AIガバナンスをめぐる国際的な枠組み作りは、2023年のブレッチリー宣言や2024年のソウル・サミット以降、米国・EU・英国・日本などの主要国が協議を重ねてきた。しかし2025年以降、米国の政権交代を受けて交渉の方向性は揺らいでいる。米国・EU・中国はAI規制のアプローチで度々対立しており、多国間での法的拘束力ある枠組み構築は依然として難航している。
国内でも状況は厳しい。トランプ政権はAIへの関与方針を「不干渉」と「積極介入」の間で揺れ動かせており、米議会は実効性ある連邦AI規制法をいまだに成立させていない。
実際、AnthropicとOpenAIはトランプ政権の圧力を受け、最新モデルの一般公開を延期した経緯がある。この動きは、米国技術に依存する他国を驚かせ、EU・米国間での協議や、フランスで開催されたG7サミットでの議論を招いた。
あるAI業界リーダーは、競合他社との関係上、実名での発言を避けることを条件に「業界のコンセンサスだけでは不十分で、米国政府を動かすことが政治的な課題だ」と指摘した。
Hassabisは慎重な楽観論を示している。「ブログ記事を公開するだけでなく、実際に実現できるかどうかが次のステップだ」と語っており、来週ワシントンで政策立案者との会合を予定している。
なぜHassabisが動くのか
AIガバナンスをめぐる議論では、OpenAIのAltmanやAnthropicのAmodeiも独自の規制枠組みを提唱してきた。Amodeiは最近、米国内でのAI監督を担うFAA(連邦航空局)類似の新機関創設を提案している。
ノーベル賞受賞者でもあるHassabisは、競合他社のCEOたちと比べて業界内の摩擦が少なく、幅広い支持を集めやすい立場にある点が、今回の働きかけの推進力になっている。OpenAI・Anthropic・xAIといった競合各社からの初期支持が得られていることも、この見立てを裏付ける。
Hassabisは「具体的なものが必要だった。抽象的な議論ではなく」と述べており、今回の提案が業界横断的な合意形成の土台になりうるかが注目される。
詳細はDeepMind chief urges Washington to back global AI watchdog as frontier models raise security fearsを参照していただきたい。