7月21日、Gary Marcusが「China has all but caught up. The US is not going to "win" the AI war. Here's what we should do instead.」と題した記事を公開した。「米国はAI戦争に勝てない」——これがMarcusの結論だ。中国がAI競争でほぼ米国に追いついた現状を踏まえ、「覇権を争う」発想そのものを捨て、米国が取るべき7つの選択肢を提示している。
「追いつかれた」現実
2025年1月のDeepSeekショック以降、中国AIモデルの台頭は続いている。直近では、中国のMoonshot.AIがKimi K3を発表した。性能は米国トップモデルと同等水準でありながら、オープンウェイト(重みを公開するモデル形式)として無料でローカル実行可能だ。さらにZhipuAI(智谱AI)のGLM 5.2(同社サービスの通称「Z.ai」として提供)、AlibabaのQwenモデルも続く。この流れを受け、米国株式市場は金曜日に下落した。
Marcusは2023年夏から「技術的な堀がなければ競合が増え、価格競争が起き、利益は消える」と繰り返し警告してきた。2025年1月の論考では以下を予測していた。
- LLM中心の戦略では米国は決定的な優位を築けない
- 技術的な堀の欠如によりOpenAIは黒字化できない
- Nvidiaも脆弱になる
- CHIPS法は効果が薄く、中国を抑制しない
- モデルの効率化・低コスト化は進むが、ハルシネーションと信頼性問題は残る
「基本的にその通りになった」とMarcusは述べ、米政府がシリコンバレーの楽観論を鵜呑みにしてGenAIに全賭けしたことを「大きな失策」と断じている。
7つの選択肢
本稿の核心は、トランプ政権が取り得る7つの選択肢の分析だ。
1. 何もしない
OpenAIやAnthropicを政府支援なしで自立させる。GoogleやMicrosoftやAmazonは残るため、米国の基本的なニーズは満たされる。ただしAI市場の大半を中国に譲る可能性がある。
2. オープンソースを禁止する
LLMに関しては「すでに手遅れ」とMarcusは言う。仮に違法化しても、ダークウェブや非禁止国で存続し続ける。
3. 規制で壁を作る
米国企業を守るための「裏口的保護主義」。政策研究者のDean Ball(Marcusによれば、OpenAIとも近い立場でこの方向性を示唆しているとされる)がこの路線を主導しているとされる。しかしMarcusは強く反対する。投資家・CEOのPhil Libinの言葉を引く。
「米国のシステムは資本・アイデア・人材の自由な流通で強くなる。ゼロサムゲームで"勝つ"必要はない。ゲームをノンゼロサムに変えることが勝利だ。それが20世紀の勝因であり、21世紀の最善策でもある」
Matt Stollerはこれを「オープンな競争市場の代わりの企業共産主義」と呼ぶ。数十万の米スタートアップを犠牲に、2社だけを守る構図になるとMarcusは批判する。
4. 大手AIラボを救済する
Marcusは「論外」と一言で切り捨てる。収益化できていない企業に公的資金を投じることへの反対であり、選択肢3の「規制による保護」とは異なり、直接的な財政支援そのものを指している。
5. 中国モデルを全面禁止する
Axiosはこの方向が検討されていると報じた。消費者の価格上昇とイノベーション抑制を招くとMarcusは見る。
6. OpenAIとAnthropicを政府が買収して国立研究所化する
「2セントに値する程度の価格で」(両社とも収益化できていないため)買収し、認定研究者に開放する案。ただし政府による大規模監視への転用リスクが懸念される。Hegsethが過去にAnthropicへ同様の要求をして拒否された経緯もある。
7.「AIをグローバル公共財にする」——ワイルドカード
Marcusが最も有望とするのがこの選択肢だ。2016年のAI for Good会議での講演、そして2017年のニューヨーク・タイムズ寄稿で提唱した「AIのためのCERN」構想を再び持ち出している。
「私は高エネルギー物理学の同僚を羨ましく思う。とりわけCERN——数千人の科学者と数十億ドルの資金を擁する巨大な国際共同研究体——を。彼らは野心的で明確に定義されたプロジェクトを追求し、成果を単一国家や企業に限定せず世界と共有する……AIの国際的なミッションは……AIを特権的な少数の所有物ではなく公共財にすることで、世界を真に変えられるだろう」
CERNはスイスに本部を置く欧州原子核研究機構で、ヒッグス粒子発見などの成果を出した国際共同研究の代表例。Marcusはこの構造をAI研究に適用することを2016年から訴えてきた。
追い風もある。習近平が初めてAI会議に基調講演者として登場し、「AIを国際公共財に」という趣旨の発言をしたのだ。Marcusはその真意を留保しつつも、「議論の入り口が開いた」と評価している。
具体的な提案として、クローズドソースAIを違法化し、すべてのメーカーに重み・アーキテクチャ・学習データを認定研究機関へ共有することを義務付け、中国と合意してAIを公共財化する、というシナリオを描く。「トランプ大統領が本当にノーベル平和賞を望むなら、これがその機会だ」とも述べている。
なぜ今これが重要か
OpenAIとAnthropicのIPOが近いとされる中で、この記事が指摘するビジネスモデルへの疑問は投資家にとっても無視できない。技術的な差別化が困難なLLM市場において、規制による保護か、それとも公共財化かという二択の議論は、今後の政策論争の中心になる可能性がある。
詳細はChina has all but caught up. The US is not going to "win" the AI war. Here's what we should do instead.を参照していただきたい。