7月18日、Donald Farmerが「Will AI replace data analysts: A year and a half later」と題した記事を公開した。AIはデータアナリストを代替できるのかという問いに対し、1年半前の自説を現状に照らして再検証した内容だ。
著者のDonald Farmerは、MicrosoftやQlikでプロダクトチームを率いた経歴を持つデータストラテジストだ。2025年1月に「GenAIはデータアナリストを代替しない」と論じた彼が、約1年半後の2026年時点で自説を再検証した。
大規模レイオフとそれでも埋まらない人材不足
まず前提として、AIと関連したかたちでの雇用削減は各社で現実に起きている。Ciscoは4,000人、Amazonは2025年末以降で約30,000人の企業職を削減した。Blockは全体の約40%を削減し、CEOのJack DorseyはAIツールの進化を直接の理由として挙げている。Metaも2026年5月に約8,000人(全従業員の約10%)を削減しているが、同社については業績・組織再編など複合的な要因も背景にある点は留意が必要だ。
一方でIBMが2025年に行った上級データ・アナリティクス幹部へのサーベイでは、「優秀な人材の確保・維持が最も困難な課題」と回答した割合が47%に達し、2年前の32%から大幅に増加した。同時に77%が「データ職の採用に苦戦している」と報告している。
さらにInfragistics Revealの2026年版ITタレント調査によれば、採用計画がある企業のうち70%がシニア人材・AI専門職への採用を指向しており、エントリーレベルを採用対象とした企業は**わずか12%**にとどまった。
つまり構造は単純ではない。各社は削減を進めながら、同時に「欲しいアナリストが採れない」と嘆いている。この一見矛盾した状況は、「どのアナリストが不要になり、どのアナリストが不足しているか」が異なることを示唆している。
AIが得意なこと・苦手なこと
技術面でも進化はあった。特に**セマンティックレイヤー**(生の技術的データをビジネス用語に変換する中間層)の整備が進み、AIエージェントがテキストから推測するのではなく、ガバナンスされたテーブルを直接クエリできるようになった。可視化の品質も大きく向上している。
しかしFarmerは、AIが依然として乗り越えられない壁を具体的な例で示している。
マーケティング分析において、AIエージェントが「ペイドサーチが先四半期の売上の大半を牽引した」と報告し、予算増額を推奨したとする。しかし実際には、同時期のブランドキャンペーンと値下げが需要を生み出しており、消費者はすでに購買意欲があったからこそ広告をクリックしたに過ぎなかった。アトリビューションモデルが「最後のクリック」に成果を帰属させる構造的な問題を、AIは自力では検出できない。
AIはデータ取得の自動化は得意だが、自身のアウトプットが持つ財務・倫理・戦略上の含意には盲目だ。
この問題はアトリビューションに限らない。モデルのバイアス検出、規制上の説明責任、ステークホルダーへの解釈提示など、いずれも「文脈を読む判断力」を要する領域であり、現状のAIエージェントが自律的に担うには限界がある。
「責任を取れる人間」が求められる
規制当局は、銀行や保険会社に対して意思決定の責任者として「人間」の特定を求める。エージェントが誤った価格設定をし、開示規則に違反し、取締役会報告書に誤数値を含めても、モデルを罰することはできない。AIに分析を構築させつつも、そのアウトプットに人間が答える必要がある以上、アナリストという職種は消えない。
Farmerによれば、現在のアナリストの業務は3つに収束している。データの解釈、説明の執筆、そして自動化された出力のガバナンスだ。機械的な作業はAIに委ねつつ、ビジネス意思決定者が動けるような解釈と説明を担うのが人間の役割となる。
「2026年のシニア」は「2020年のジュニア」だった
最も示唆に富む指摘はここだ。企業がエントリーレベルの採用を切り捨てることで、次世代のアナリスト育成パイプラインが断絶するリスクがある。
かつてジュニアアナリストは、データクレンジング・基本的なクエリ記述・チャート作成を通じて判断力を培っていた。それらの作業をエージェントが代替する今、新入社員はその訓練機会を失っている。2026年に各社が採用したいシニアアナリストとは、2020年代前半に企業が育てたジュニアたちに他ならない。今エントリー採用を止めた企業は、5年後に経験者不足に直面する。
この問題はデータ領域に限らず、AI導入が進む職種全般で共通して議論されつつある。データリテラシー教育の重要性が改めて注目されている背景の一つでもある。
結論:「どのタイプのアナリストか」によって答えが変わる
Farmerの出した答えは明快だ。
- セマンティックレイヤーを管理し、AIエージェントを監査し、ビジネスを十分に理解してAI出力の正確性・妥当性・倫理性を判断できるアナリスト→ 需要は高く、むしろ不足している
- ルーティンのデータ抽出・フォーマット・基本チャート作成が主業務のアナリスト→ その業務はソフトウェアに置き換えられる
アナリストへの推奨事項として同氏は2点を挙げている。まずセマンティックレイヤーとビジネスの双方を理解し、AIエージェントのパフォーマンスを評価・説明できる能力を身につけること。そして組織はエントリーレベルの採用を維持し、AIエージェントを監督・統治する責任者を置くべきだということだ。
詳細はWill AI replace data analysts: A year and a half laterを参照していただきたい。