7月18日、The Next Webが「France and Germany pledge to build a European rival to Palantir's military AI software」と題した記事を公開した。欧州二大国がアメリカの軍事AIプラットフォームを実際に契約から外しはじめ、さらに「欧州版を自前で作る」と宣言したというのが骨子だ。技術の優劣の話ではない。大西洋横断関係が揺らぐ今、軍の最高機密インフラをどの国の企業に預けるかという政治判断が、欧州防衛の具体的な調達行動を動かしはじめている。
Palantirの除外はすでに始まっている
マクロン大統領とメルツ首相の会談後、両国は共同宣言に署名した。宣言の核心は、データ中心のセキュリティ・AI・クラウドソリューションを統合した「欧州主権デジタル基盤(European sovereign digital backbone)」の構築を検討するというものだ。
出発点として名指しされたのが、フランス軍が開発・運用するAI搭載の指揮統制プラットフォーム「Arcadia」。これにドイツの「比較可能なソリューション」を組み合わせる形で欧州共通のシステムを模索する。
この宣言は単なる将来構想ではない。両国はすでに行動に移している。
- フランスの国内情報総局(DGSI)は2025年6月、Palantirとの契約をわずか6か月更新した後に、フランス企業ChapsVisionのArgonOSへの切り替えを発表した。
- ドイツの連邦憲法擁護庁(BfV)も同じくChapsVisionを採用。
- ドイツ連邦軍(Bundeswehr)はPalantirを防衛クラウド調達から完全に除外した。
問題の本質は「技術力」ではなく「主権」
Palantirの技術が機能することは疑いようがない。同社CEOのアレックス・カープ氏は先月、ドイツ紙Bildのインタビューで、ドイツが自社製品を検討しないことを「魔術についての議論」と揶揄し、「あらゆる本格的な戦場で実証済みだ」と反論した。しかし、ベルリンの姿勢は変わっていない。
NATOの高官はPoliticoに対し、「戦場データ処理に使われているPalantirのMaven Smart Systemに匹敵する欧州の代替品は存在しない」と語っていた。Maven Smart System(旧称Maven Software)は、米国防総省との長期契約に基づき戦場の情報分析・ターゲティング支援に使われているプラットフォームで、Palantirの軍事事業の中核をなす。今回の共同宣言は、パリとベルリンによるその問いへの回答だ――「ならば作る」。
問題は技術の優劣ではなく、大西洋横断関係が自明でなくなりつつある今、欧州で最も機密性の高い軍事インフラを米国企業に依存し続けてよいのかという政治判断にある。
ミサイル・戦車・宇宙にも拡大する協力
共同宣言の対象はAIソフトウェアにとどまらない。
- 長距離兵器:仏独英3か国で射程2,500kmの長距離兵器の協力を検討。宇宙打ち上げ・ミサイルシステムを手がける欧州の宇宙・防衛大手ArianeGroup(エアバスとサフランの合弁企業)の能力を活用する。
- 次世代戦車(MGCS):レオパルト2とルクレールの後継となる仏独共同戦車プログラムで、自律走行・センサー・戦場ネットワーキングに関する研究プログラムを始動。
- 次世代戦闘機(FCAS):こちらは宣言から目立って欠落している。FCASはフランス・ドイツ・スペインの三国間プログラムであり、技術的役割分担や知的財産の扱いをめぐってパリとベルリンの間で摩擦が続いてきた経緯がある。今回の二国間宣言にスペインは参加していないため、三国プログラムに言及することが難しかったとみられる。代わりに、異なる国の戦闘機やドローンが戦場で通信できる「欧州共同コンバット標準(European collaborative combat standard)」の策定で合意した。
「宣言」を「動くソフトウェア」に変えられるか
フランスのArcadiaは実戦運用中のシステムであり、出発点としての説得力はある。だが、二国間で異なるシステムを統合し、欧州全体が使える主権基盤に仕上げることは、政治宣言とはまったく別次元の難題だ。
記事はこう結んでいる――「フランスとドイツはその問いを共同宣言に盛り込んだ。それを動くソフトウェアに変えられるかどうかが、より困難な部分だ」。
詳細はFrance and Germany pledge to build a European rival to Palantir's military AI softwareを参照していただきたい。