7月17日、PYMNTSが「UnitedHealth's AI Bet Paid Off. Now It Is Selling the Playbook」と題した記事を公開した。UnitedHealthが社内全体に導入したAIの成果が具体的な数字として表れており、そのノウハウを外部向け商品として販売し始めたことが詳しく紹介されている。
なお同社は現在、医療費の不正拒否問題やCEO銃撃事件をめぐる社会的批判を受けている渦中にある。今回の業績改善はその文脈とあわせて読む必要がある。
AIで「事前承認」を自動化、承認率96%を達成
UnitedHealthは、保険請求の処理・事前承認(Prior Authorization)・患者対応のすべてにAIを組み込んだ。これは社内の業務基盤を丸ごと置き換える規模の話だ。
事前承認(Prior Authorization)とは、医師が特定の治療や薬を処方する前に保険会社の承認を得るプロセスで、医療現場では「医師・患者双方にとって最大の行政的障壁」として長年問題視されている。UnitedHealthはこれをAIで自動化し、**初回承認率96%**を達成した。
さらに同社は、年内に事前承認の件数全体を30%削減すること、小児科領域に至っては事前承認要件の3分の2近くを撤廃することを今四半期中にコミットした。
財務面への直接的な影響は明らかだ。2026年第2四半期の営業利益は前年比55%増の80億ドルに達した。
臨床現場でも具体的な数字が出ている
直接患者ケアを提供するOptum Healthは、2,000万人の患者を抱える。担当臨床医の**70%にはアンビエントリスニング型(診察中の患者・医師間の会話をバックグラウンドで受動的に記録・文字起こしする方式)のAIツールがすでに展開されており、年内に90%**到達を目指す。
このツールの効果として、Optum CEOのPatrick Conwayは「認知的バーンアウト(精神的疲弊)が90%減少した」と述べた。看護師の複雑な患者ケースの要約作業は40%高速化。西部・南部地域では入院件数が10%減少している。
保険請求処理の領域でも、従来は人手によるレビューが必要だった複雑なケースが自動処理されるようになった。UnitedHealthcare CEOのTim Noelは「以前は自動化できないと思っていた非常に複雑な請求まで、より高い精度で処理できるようになった」と述べている。AI支援によるスケジューリングの最適化により、専門医の予約待ち時間も短縮され、今年前半で患者向け対応時間が約20万時間拡大した。
ノウハウを「商品」として外部販売へ
ここが最もエンジニア・事業開発の両視点から面白い部分だ。
UnitedHealthは内部で磨いたツール群を、Optum Insightというブランドで外部の医療機関・保険会社向けに商品化している。Optum InsightのIT投資の約3分の1が、この商業化に充てられている。
具体的な商品は2つ紹介されている:
- Optum Real(デジタル事前承認プラットフォーム):昨四半期ローンチ。外部クライアント向けに約50万件の事前承認を処理し、6万9,000時間の行政作業を削減。
- Value Connect(電子カルテに直接組み込むAIインサイトプラットフォーム):初期導入クライアントで薬剤費が17%削減。
CEOのStephen Hemsleyは「これはまだ始まりに過ぎないが、投資を重ねるごとに複利的な効果が生まれる」と述べた。
その他の主な数値と背景
2026年第2四半期の調整後EPSは6.38ドル(前年同期4.08ドル)で、1株当たり利益が大幅に改善した。総収益は1,120億ドル(前年比ほぼ横ばい)と規模を維持している。
注目すべきは医療費率(MCR)の改善だ。MCRは**86.7%**(前年同期89.4%)と2.7ポイント低下した。MCRとは保険料収入に占める医療費支払いの割合を指し、この数値が低いほど保険事業の収益性が高いことを示す直接的な指標である。今回の低下は、AI活用による請求処理の精度向上や事前承認の効率化が、収益構造の改善に直結していることを示している。
また、2027年末までに事前承認の80%をリアルタイム処理する目標を設定しており、7月2日にはAlegeus Technologiesの買収を完了した。
UnitedHealthの事例は、「社内AI導入の成果をそのまま商品にする」というパターンの医療領域での具体例として、規模・数値ともに他社の参考になるだろう。
詳細はUnitedHealth's AI Bet Paid Off. Now It Is Selling the Playbookを参照していただきたい。