7月18日、The Next Webが「Alibaba open-sources its AI chip software stack at WAIC, targeting Nvidia's CUDA lock-in」と題した記事を公開した。AlibabaのチップデザインユニットT-Headが、NVIDIAのCUDA依存からの脱却を狙ったAI向けソフトウェアスタックSAILをオープンソース化し、「7日以内に主要AIフレームワーク向けへの移行が可能」と主張している。すでに56万枚を出荷済みのZhenwuチップとソフトウェア層をセットで公開するこの動きは、単なる技術発表にとどまらない政治的・商業的文脈を持つ。
CUDAロックインへの直接攻撃
AlibabaのチップデザインユニットT-Headは、7月12日・13日に上海で開催された世界AI会議(WAIC)において、同社の「Zhenwu(真武)」シリーズAIチップ向けのフルソフトウェアスタックSAILをオープンソース化すると発表した。なお、SAILという略称の正式名称は元記事内に明記されておらず、現時点では不明である。
このSAILが標的にするのは、現在のAI開発の構造的な問題だ。世界のAI開発者の大多数は、NVIDIAが独自に開発したGPUプログラミングツールキット**CUDAを使ってソフトウェアを書いている。CUDAへの依存は事実上、NVIDIAハードウェアへのロックインを意味する。この構図がNVIDIAの時価総額3.4兆ドル**到達を支えてきた一因でもある。
T-Headの主張は単純明快だ。「開発者はSAILを使えば7日以内に主要なAIフレームワーク向けに適応できる」というものだ(あくまで同社の主張であり、独立した検証はまだない)。PyTorchなどのフレームワークとの互換性を保ちながら中国製ハードウェア上で動作するコードへの移行コストを下げることが狙いである。
Huaweiに続く「ソフトウェア層」での脱CUDA戦略
T-Headの動きは孤立したものではない。
- Huawei:AscendシリーズAIプロセッサ向けソフトウェアプラットフォーム**CANN**を2025年にオープンソース化
- Moore Threads(摩尔线程):独自のGPUスタックで同様のアプローチを推進
3社はいずれも同じ開発者層の獲得を争っている。技術的なハードルよりも習慣の壁の方が高い、というのが実態だ。CUDAは17年間のヘッドスタートを持ち、業界最大のライブラリエコシステムを誇る。移行ツールをオープンソース化することで、そのネットワーク効果を少しずつ崩していく戦略である。
WAICの場でまさに習近平国家主席も「いかなる国も単独でAIを独占すべきではない」と発言しており(TNW報道)、SAILのオープンソース化はその主張のインフラレベルでの実装と位置づけることができる。
Alibabaにとっての政治的文脈
タイミングも読み解く必要がある。
Alibabaは直近、逆風に晒されている。先月はAnthropicが「AlibabaのQwenラボによる米国企業への過去最大規模のAI蒸留(distillation)キャンペーン」としてClaudeモデルの無断利用を非難。さらに米国防総省は6月にAlibabaを「中国軍関連企業」リストに追加した。
こうした状況下でSAILをオープンソース化することには、「オープンなAIインフラへの貢献者」としての立場を示す意味合いもある。Zhenwuチップはすでに400社以上の顧客に56万枚が出荷済みだ。ソフトウェア層を公開することでエコシステムの粘着性を高め、特定の政府による封じ込めを困難にする効果も期待できる。
CUDAの代替を目指したソフトウェアスタックはこれまでも複数登場してきたが、AIチップの大規模な実出荷実績と組み合わせてオープンソース化された事例は少ない。17年分のエコシステムの差を埋めるには長い時間がかかるが、ソフトウェア層をオープン化することで移行コストを下げるアプローチは、少なくとも方向性として整合している。読者にとって問うべき核心は、「7日」という移行期間の主張が実際の開発現場でどれだけ再現可能かだろう。エコシステムの成熟度やライブラリの揃い具合によって体感は大きく変わるはずであり、今後コミュニティからの検証報告が蓄積されるかどうかが、このスタックの本当の評価軸になる。
詳細はAlibaba open-sources its AI chip software stack at WAIC, targeting Nvidia's CUDA lock-inを参照していただきたい。