7月18日、Matthias Bastianが「China's new World Artificial Intelligence Cooperation Organization is President Xi's clearest play yet for a parallel AI order」と題した記事を公開した。中国が新たな国際AI協力機構の設立を主導し、米国主導のAIガバナンスの外側に独自の枠組みを構築しようとする動きを詳報している。
習近平、上海でグローバルサウス向けに5,000人分のAI訓練枠を表明
習近平は上海で開催された世界AI会議(World AI Conference)において、今後5年間でグローバルサウス(新興国・途上国)向けに5,000人分のAI訓練枠を提供すると表明した。
これと連動する形で、前日の7月17日には29カ国が正式に「世界人工知能協力機構(World Artificial Intelligence Cooperation Organization、以下WAICO)」を設立した。本部は上海に置かれ、構想自体は2025年初頭に提案されたものだ。
設立メンバーにはロシア、ブラジル、南アフリカ、パキスタン、インドネシアなどが名を連ねる。一方、西側諸国は1カ国も参加していない。この顔ぶれはBRICSや上海協力機構(SCO)の参加国と大きく重なっており、既存の多極主義的な枠組みを土台にしてAI分野の独自陣営が形成された格好だ。
「並行なAI秩序」を構築する意図が鮮明に
WAICOが設立された文脈を理解するには、現在のAIガバナンスをめぐる国際的な分断を押さえておく必要がある。英国・韓国・フランスが主催してきたAIセーフティサミットや、G7の広島AIプロセス、OECDのAI原則といった西側主導のガバナンス議論は、中国を実質的に蚊帳の外に置いたまま進んできた。WAICOはこの構図に対して、「自分たちにも独自のルール形成の場がある」と示す外交的な回答と読める。
習近平はAIの人間によるコントロールの維持を訴えると同時に、「過度に広範な国家安全保障の正当化」をAI政策に持ち込むことへの反対を表明した。これは米国によるAIチップ・技術の輸出規制を念頭に置いた発言と見られる。また習近平は、AIを含むデジタル技術全般を対象とする中国の「スマートエコノミー」の規模が、現在1兆人民元(約1,400億ドル)超に達したとも述べた。
米国の輸出規制への対抗軸として
米国はNVIDIAの高性能GPUをはじめとするAI関連チップの中国・第三国向け輸出規制を継続的に強化してきた。バイデン政権期に導入された「AI拡散ルール(AI Diffusion Rule)」はその象徴的な施策であり、中国だけでなくグローバルサウスの多くの国々に対しても先端チップへのアクセスを制限する内容を含む。
この文脈において、WAICOの設立は単なるシンボルではない。中国が技術・教育・資金で影響力を持つ国々を束ね、西側の輸出規制や標準化議論の枠外に独自のルール形成の場を作ろうとする戦略的布石だ。本部を上海に置き、中国のAIインフラや技術スタックと親和性の高い国々をエコシステムとして組織化することで、将来の技術標準や規制モデルにおける影響力を確保しようとしている。
5,000人のAI人材訓練が持つ意味
5,000人のAI訓練枠という数字は、純粋な技術支援の文脈だけでは読み解けない。中国製AIツールや中国流のAIガバナンス観を新興国に浸透させる人的ネットワーク構築の側面も大きい。
西側諸国が先進国向けのAI規制・倫理議論に注力する一方で、中国はグローバルサウスの実務人材レベルへの関与を深めることで、長期的な技術依存関係と親中的なAIガバナンス観の普及を同時に狙っていると見ることができる。
※編集部の考察:WAICOが「もう一つのAI国連」として機能するには、実際の技術標準の策定や紛争解決メカニズムの整備など、制度的な深化が今後求められる。設立段階の政治的宣言にとどまるのか、実効的な機関として育つのかは、今後の加盟国の動向と中国の資源投入の規模にかかっている。
詳細はChina's new World Artificial Intelligence Cooperation Organization is President Xi's clearest play yet for a parallel AI orderを参照していただきたい。