7月17日、CNBCが「Anthropic in early talks with Meta to acquire compute power」と題した記事を公開した。AI市場で直接競合するAnthropicとMetaが、インフラ面では取引関係を結ぼうとしている——そんな異例の構図が明らかになった。
AnthropicがMetaからコンピュートを調達へ——規模は約100億ドル
CNBCの取材に応じた関係者によると、AnthropicはMetaとコンピューティングパワーのリース契約について初期交渉を進めている。ニューヨーク・タイムズの報道によれば、交渉中の取引規模は約100億ドル(約1.5兆円)とされている。
この報道を受け、Meta株は同日の下落幅を縮小した。交渉はあくまで「極めて初期段階」であり、最終合意に至るかどうかは現時点では不明だ。なお、Metaはコメントの要求に対して回答を断っている。
GPU不足が招くAIラボの「調達競争」
この交渉の背景にあるのは、AIチップの慢性的な供給不足だ。NvidiaのGPUへのアクセスは、Anthropicのような先端AIラボにとって依然として大きな制約となっている。Anthropicはすでに最新フラッグシップモデル「Fable」(同社が2026年に投入した最先端の大規模言語モデル)において利用制限を設けており、有料ユーザーに対してもキャパシティの上限が課されている状況にある。
今回の交渉は、数週間前に発表されたxAIのデータセンター「Colossus 1」との類似の契約に続くものだ。Anthropicはイーロン・マスクが率いるAI企業xAIが保有するColossus 1データセンターのコンピューティングキャパシティを利用する契約を締結しており(関連報道)、有料サブスクライバー向けの処理能力拡張を目的としている。
自社でデータセンターを整備するのではなく、他社が保有するGPUクラスターを借り受ける形で処理能力を確保するアプローチは、調達リードタイムが長期化する現在のGPU市場において現実的な戦略として定着しつつある。競合他社のインフラを借りてでもモデルの提供を継続・拡大するという判断は、AIラボにとってのコンピュート確保がいかに切実な課題かを示している。
Metaにとってはクラウドビジネスへの布石
Metaの側にも明確な商業的動機がある。CEOのマーク・ザッカーバーグは2025年10月の時点で、「AIコンピュートを買いたいという企業から定期的に問い合わせが来ており、我々の調達コストにプレミアムを乗せて売れるかどうか聞かれている」と述べていた。
その後、ザッカーバーグは2026年5月にクラウドコンピューティングビジネスへの参入を検討中だと表明。AI投資のリターンを既存事業の改善以外の形でも示すことが、投資家への説明責任という文脈で重要になっていた。
Metaは2026年の設備投資額が最大1,450億ドルに達する見込みで、その相当部分がAIインフラへの投資に充てられる。余剰コンピュートを外部に販売するモデルは、AWS(Amazon Web Services)が確立したプレイブックでもある。Amazonはかつて自社の余剰サーバーリソースをクラウドサービスとして外販することでAWSを立ち上げ、現在では同社の主要収益源のひとつに育てた。Metaが同様のモデルを志向しているとすれば、今回のAnthropicとの交渉はその第一歩となりうる。
実際にMetaは、AWSの元幹部Dave Brownをインフラ責任者として招聘する予定だとウォール・ストリート・ジャーナルが報じており、クラウドビジネス参入に向けた体制整備が着々と進んでいる様子がうかがえる。
競合同士が「インフラ」で手を結ぶ構図
今回の交渉が特に注目される理由は、AnthropicとMetaがAI市場で直接競合しながらも、インフラ面では取引関係を結ぼうとしている点にある。MetaはLlamaシリーズでオープンソースモデルを展開しており、Anthropicのエンタープライズ顧客と重複する領域も少なくない。
AI業界では、こうした「競合しながら協調する(co-opetition)」関係がインフラ層で生まれやすい。クラウド大手がAIスタートアップに計算資源を提供しつつ、自社モデルでも競合するという構図はすでに珍しくないが、AI企業同士が直接インフラ取引を行うケースはまだ新しい潮流だ。コンピュートの確保が競争力の根幹を左右する現在のAIレースにおいて、資本力を持つ企業がインフラ提供者としての地位を確立できるかどうかは、今後の業界再編を左右する重要な変数となりうる。
※編集部の考察:今回の交渉が成立すれば、Metaにとってはクラウド事業の実績づくりとなり、Anthropicにとってはコンピュート調達先の多様化につながる。双方に明確なメリットがある構図であり、交渉が前進する可能性は低くないとみられる。
詳細はAnthropic in early talks with Meta to acquire compute powerを参照していただきたい。