7月17日、Google Cloudが「13 demos on Gemini Enterprise Agent Platform」と題した記事を公開した。エンタープライズ向けAIエージェント基盤「Gemini Enterprise Agent Platform」の実装パターンを網羅した13本のデモ・コードラボを体系的に紹介した内容で、「作って終わり」ではなく本番運用まで見据えたエージェント開発の全工程を、一つの記事の中で実際に手を動かしながら追える構成になっている点が特徴だ。
「作って終わり」ではなく、本番運用まで一気通貫
今年初めに発表されたGemini Enterprise Agent Platformは、AIエージェントのビルド・スケール・ガバナンス・最適化を一つの基盤でカバーするプラットフォームだ。今回公開された13本のデモは、その4フェーズに対応して体系的に整理されている。
注目したいのは導入の敷居の低さだ。Agents CLIを好みのコーディングエージェントにインストールすると、ADK(Agent Development Kit)とAgent Platformの専門知識を持つ7つのスキルがそのエージェントに追加される。あとは「こういうエージェントを作りたい」と自然言語で伝えるだけで、スキャフォールディング・評価・デプロイ・監視まで自動でこなしてくれる。エディタから一切離れる必要がない、というのがGoogleの主張だ。
※編集部の考察:Agents CLIはClaude CodeやOpenAI Codexなど複数のコーディングエージェントへの対応を想定した設計になっており、特定のエージェントへの依存を避けている点も実運用での採用障壁を下げる工夫といえる。
最も詳細に解説されているデモ:経費承認エージェント
13本の中で最も見応えがあるのが、「アンビエント経費エージェント」を軸にした一連のデモだ。これは単体のコードラボではなく、Build→Scale→フロントエンドという3段階にわたって登場し、エンタープライズ向けエージェントの全体像を一本の流れで体験できる構成になっている。
Build段階(コードラボ)では、ADK 2.0のグラフベースワークフローAPIを使って経費承認フローを構築する。閾値以下の経費はPythonで自動承認し、閾値超えはLLM呼び出し前のセキュリティスクリーン(PII除去・プロンプトインジェクション防御)→Geminiによるコンプライアンス分析→ヒューマン・イン・ザ・ループレビューという多段階処理を経る。FastAPIでマウントしてPub/Subイベントから起動し、LLM-as-judgeで評価まで行う。
Scale段階(コードラボ)では、Agents CLIを使って同じエージェントをAgent Runtime(旧称: Agent Engine)に本番デプロイする。Cloud Trace・Cloud Logging・BigQuery Agent Analyticsが自動で組み込まれ、Agent Registryへの自動登録によりデプロイ直後から組織内の他システムに発見可能な状態になる。
フロントエンド段階(コードラボ)では、Cloud Run上にマネージャー向けダッシュボードを構築し、OIDCで認証されたPub/SubパイプラインでAgent Runtimeに接続。ブラウザからヒューマン・イン・ザ・ループのセッションを再開できるUIを実装する。
その他のデモ:概要早見表
残りの10本も各フェーズを補完する実践的な内容だ。
Build(構築)
- ADK基礎コードラボ(リンク):ADKが初めてならまずここから。CLI/WebUI両方でエージェントをテストする入門編。ツール定義・セッション管理・マルチターン会話の基礎を一通りカバーしている
- MCPツール連携(リンク):Model Context ProtocolでBigQueryやAPIをGeminiから呼び出す再利用可能なツールを構築。MCPはオープンプロトコルのため他フレームワークでも流用可能。既存のMCPサーバー資産をそのままADKに組み込める点も見どころだ
- Agent-to-UI(A2UI)(リンク):エージェントがレイアウト・チャート・インタラクティブメニューなどUIコンポーネントを会話の流れに合わせてリアルタイムに組み立てる。従来の固定UIではなくエージェントの判断でインターフェースが動的に変化する点が従来のチャットUIとの大きな違いだ
Scale(拡張)
- ステートフルなデータサイエンスエージェント(コードラボ):Memory Bankでセッションをまたいだユーザー設定を記憶するBigQueryエージェントをAgent Runtimeにデプロイ。セッション間の文脈保持がどのように実装されるかを具体的なコードで確認できる
- 長期実行エージェント(チュートリアル):数日〜数週間かかるワークフローをコンテナ再起動に耐えながら継続する3つのアーキテクチャパターン(耐久性ステートマシン・イベント駆動アイドル・チェックポイント&再開)を解説。長期タスクでコンテキストを失わない設計の勘所が整理されている
Govern(ガバナンス)
- セキュアなエージェント開発(コードラボ):TDD・STRIDEスレットモデル・Semgrepプリコミットフック・PreToolUseゲートを組み合わせたセキュリティ実装。意図的に埋め込んだハードコードAPIキーをフック起動時点で自動検出・修正させる演習が含まれており、セキュリティ実装の流れを体験できる構成だ
- Agent Gateway(コードラボ):mTLSによるエージェント固有IDの付与、IAPとIAMによる認証・認可、Model Armorによるプロンプトインジェクションとデータリーケージのフィルタリングをワンデモで体験。ガバナンス要件が厳しいエンタープライズ環境での導入を想定した内容になっている
Optimize(最適化)
- エージェント品質フライホイール(チュートリアル):OTelトレースやテストケースからデータ準備→推論実行→AutoRatersによる自動評価→失敗クラスター分析→最適化という5段階サイクルをコーディングエージェントから直接実行する。継続的な品質改善をCI/CDのように組み込む設計の参考になる
- A2Aによるクロス言語マルチエージェント(チュートリアル):Pythonエージェントが契約書の条項を抽出し、Goエージェントが社内ポリシーで検証。Agent-to-Agent(A2A)プロトコルで連携し、
RemoteA2aAgentで数行のコード実装。異なる言語ランタイムをまたいだエージェント連携の具体的な実装方法を確認できる - マルチフレームワーク統合(コードラボ):ADKのコントロールルームがLangGraphのステートマシンに計画を委譲し、CrewAIの実行クルーにタスクをディスパッチ。A2Aで全体を接続し、いずれかのステップが失敗すればコントロールルームが自動で再計画する。既存のフレームワーク資産を捨てずにADKと共存させる現実的なアプローチとして参考になる
エージェント開発の全体像を10分で把握したい場合はこちらの動画が公開されている。
詳細は13 demos on Gemini Enterprise Agent Platformを参照していただきたい。