7月18日、CNBCが「Anthropic in early talks with Meta to acquire compute power」と題した記事を公開した。AnthropicがMetaから約100億ドル相当のコンピューティングパワーをリースする交渉を進めているというこの報道は、AIチップ不足が生み出した「AIラボ同士の計算資源売買」という新たな市場の出現を象徴する出来事として注目を集めている。
100億ドルの計算資源取引
CNBCの報道によると、AnthropicはMetaとコンピューティングパワーのリース契約について、ごく初期的な交渉を行っている。取引規模は約100億ドルとニューヨーク・タイムズが報じており、この報道を受けてMeta株は同日の下げ幅を縮小した。
AIラボ各社にとって、NvidiaのAIチップへのアクセスは依然として大きな課題だ。Anthropicも例外ではなく、最上位モデル「Fable」(Anthropicが現在提供する最上位グレードのモデル)の利用に制限を設けざるを得ない状況にある。
なぜAnthropicは外部からコンピュートを調達するのか
Anthropicは2021年にOpenAIの元幹部らが設立したAI安全研究に特化したラボだ。同社はAmazon、Googleといった大手クラウドプロバイダーから出資を受けており、AmazonはAnthropicに最大40億ドルの投資を発表している。AWSとは戦略的パートナーシップを結んでおり、Amazon Bedrockを通じたモデル提供が主軸の一つとなっている。
しかし、そうした出資・提携関係があっても、急増するモデル学習・推論需要に必要なGPUクラスタを自前で確保・運用するだけのインフラ規模は持っていない。OpenAIがMicrosoftとの深い統合のもとAzureのインフラを活用し、GoogleがTPUを含む自社インフラを持つのとは対照的に、Anthropicは外部の計算資源を機動的に調達する戦略を余儀なくされている。今回のMetaとの交渉は、その延長線上にある。
SpaceXに続く、2件目の大型コンピュート調達
今回のMetaとの交渉は、Anthropicがわずか数週間前にSpaceXと締結した類似の合意に続くものだ。SpaceXとの契約では、メンフィスにある「Colossus 1」データセンターの計算能力を活用し、有料サブスクライバー向けのキャパシティを拡充する内容となっている。
AnthropicがAIチップを他のAIラボや宇宙企業から調達するという構図は、業界のチップ不足がいかに深刻かを示している。自社でインフラを持つOpenAIやGoogleとは異なり、Anthropicは外部の計算資源に依存する戦略を取らざるを得ない状況だ。
Metaにとっての意味——クラウドビジネス参入の布石
Meta側の文脈も見逃せない。CEOマーク・ザッカーバーグは2026年5月、Metaがクラウドコンピューティングビジネスへの参入を検討していると発言。AI投資から現事業以外の収益を生み出せることを投資家に示す狙いがある。
実際、ザッカーバーグは昨年10月の時点で「他の企業から、我々のコンピュートを購入できないかと定期的に打診を受けている」と述べていた。
さらに、元AWSの上級幹部Dave BrownがMetaのインフラ責任者として入社する予定であることをウォール・ストリート・ジャーナルが報じており、クラウド事業への本格参入に向けた体制整備が進んでいる。Metaは2026年に最大1,450億ドルをAIインフラを含む設備投資に充てる見込みだ。
なお、Metaのクラウド参入の動きについては、Metaがクラウドサービス事業への参入を検討——ザッカーバーグが投資家向けに言及も合わせて参照されたい。
AIインフラ覇権争いの構図
今回の交渉が示すのは、AI業界における計算資源の偏在だ。Nvidiaのチップを大量に確保している企業(Meta、SpaceX)が、チップを必要とするAIラボ(Anthropic)に対してコンピュートを「売る」という新しい市場が形成されつつある。
GPUの供給制約が続く中、こうした「コンピュートブローカー」的な取引は今後も増加する可能性がある。AIラボの競争力が、モデルの品質だけでなく計算資源へのアクセス確保にも大きく左右される時代に入ったといえる。
Metaはこの件についてのコメントを拒否している。
詳細はAnthropic in early talks with Meta to acquire compute powerを参照していただきたい。