7月17日、StorageReviewが「NVIDIA and Japan Launch 27,500-GPU Vera Rubin AI Factory as Physical AI Push Spans Every Industry」と題した記事を公開した。NVIDIAが日本において2万7500基のVera Rubin GPUを擁する国家規模のAIファクトリーを構築し、製造・医療・自動車・ロボティクスにまたがる産業横断的な「フィジカルAI」戦略を一斉に展開していることが明らかになった。単一製品の投入ではなく、国家インフラからエッジデバイス・産業特化モデルまでを縦断する多層的な展開であり、日本が同社のフィジカルAI戦略における重要拠点として位置づけられていることが今回の発表から鮮明に読み取れる。
2万7500基のVera Rubin GPU——国家AIインフラの核心
戦略の中心に位置するのが、Noetra Corp.との共同開発による国家AIファクトリーだ。Noetra Corp.は日本国内のAIインフラ整備を主導するために設立された企業で、今回のプロジェクトでNVIDIAの主要パートナーとなっている。施設にはNVIDIA Vera Rubin NVL72ラックが導入され、Vera CPU 1万3750基、Rubin GPU 2万7500基を搭載する。総電力容量は140メガワットで、管理にはNVIDIA DSXプラットフォーム、ネットワークにはSpectrum-X Ethernetを採用する。
用途は「兆パラメータ規模のマルチモーダル基盤モデル」の開発だ。兆パラメータとは1兆(1,000,000,000,000)以上のパラメータを持つモデルを指し、現在公開されている大規模モデルの中でも最上位の規模に相当する。テキスト・画像・音声・センサーデータといった複数のデータ形式を統合処理できるマルチモーダル設計により、製造・物流・医療・通信といった実世界の複合的なタスクへの対応が想定されている。
この施設は、経済産業省が推進するFRONTia(フロンティア産業AI)プロジェクトの技術基盤として機能する予定で、製造・物流・医療・通信を対象とした高信頼性AIの実用化が目標となっている(経済産業省 FRONTiaプロジェクト関連ページ)。
Vera Rubin(ヴェラ・ルービン)は、NVIDIAの次世代GPU/CPUアーキテクチャ。現行のBlackwellアーキテクチャの後継として、超大規模な推論・学習ワークロードを想定して設計されている。
日本語特化モデルとオープン重みの戦略
インフラ整備と並行して、ローカライズされたモデル開発も進んでいる。東京科学大学はNemotronのオープンモデル・データセット・ライブラリを活用し、日本語理解を重視した「Swallowファミリー」を開発した。英語・コーディング能力も維持しつつ、日本語の処理品質を優先した設計だ。
通信分野では、ソフトバンク子会社のSB Intuitionsが生成AI「Sarashina」シリーズを開発。そのうち「Sarashina3 mini」はすでにデジタル庁に採用されている。
NVIDIAの方針として、オープンウェイト(公開された重みパラメータ)と学習レシピを提供することで、日本の組織がデータ主権を維持しつつ、規制要件に対応できる体制を整えている点が特徴だ。クラウドサービスへの囲い込みではなく、オープンなAIスタックの普及を目指す姿勢が明確に打ち出されている。
エッジ向けJetson Thor拡充——ロボティクス展開の現実的な入り口
産業現場へのフィジカルAI展開を支えるのが、**Jetson Thorラインナップの拡充だ。新たにJetson T3000とT2000**モジュールが発表された。
T3000は、BlackwellアーキテクチャのGPUから865 FP4テラフロップスの演算性能を引き出しながら、フラッグシップのT5000と比較して体積・消費電力ともに約半分に抑えている。NVIDIAによればマルチモーダルワークロードでの推論性能はT5000と同等水準を維持するという。両モジュールの量産出荷は2027年第1四半期を予定しており、エミュレーションサポートは今月リリースのJetPack 7.2.1で提供される。
これらのエッジデバイス向けに合わせて投入されるのが、Cosmos 3 Edgeだ。40億パラメータの世界基盤モデル(World Foundation Model)で、Nemotronをベースに構築されており、エッジハードウェア上でのオンデバイス推論とロボットポリシー実行を担う。クラウドでの集中学習と現実世界での実行の間を埋める位置づけだ。
トヨタ・キヤノン・富士フイルム——産業応用の広がり
自動車分野では、トヨタがNVIDIAとの提携を拡大。昨年発表したL2++水準のADAS(先進運転支援システム)開発に加え、今回は工場・都市インフラへの展開が新たに加わった。トヨタはNVIDIA OmniverseライブラリとIsaac Simを用いて製造・ロボティクスのシミュレーションを導入し、Woven by Toyotaは都市交通の状況理解と将来予測を行うマルチモーダルなビジョン言語モデルを開発済みだ(H100 GPUとMegatron-Coreで学習)。
医療分野では、キヤノンが日本初のNVIDIAアクセラレーション対応フォトンカウンティングCTシステムを発売。富士フイルムはNVIDIA Blackwellを搭載した日本初の全身CTシステムを商用化し、拡散ベースの深層学習再構成で画像品質を向上させている。創薬では、Xeurekaが運営するTokyo-1 AI創薬コンソーシアムに4月、エーザイが参加(アステラス製薬・第一三共・小野薬品工業に続く形)。NVIDIA BioNeMoを活用した創薬研究が進んでいる。
さらに、川崎重工業はNVIDIA Holoscan IGX・Isaac for Healthcare・Isaac GR00T・Cosmosを活用し、手術支援・看護補助・院内搬送ロボットの開発を計画している。
まとめ
国家規模のRubin GPUクラスターから、エッジ最適化されたJetsonモジュール、医療特化システムまで——NVIDIAが日本で展開するのは、単一の製品ではなく、産業ごとに入り口を変えた多層的なAIスタックだ。自動車分野ではトヨタが工場・都市インフラへの適用でADAS開発をさらに拡張し、医療分野ではキヤノン・富士フイルムがAI加速された画像診断システムを実用化、創薬では国内製薬大手が相次いでコンソーシアムに参加するなど、各産業での展開は具体的な製品・サービスのレベルに達しつつある。フィジカルAIという文脈で日本が重要拠点として位置づけられていることが、今回の発表から読み取れる。
詳細はNVIDIA and Japan Launch 27,500-GPU Vera Rubin AI Factory as Physical AI Push Spans Every Industryを参照していただきたい。