7月17日、Maxwell Zeffが「Here's Why Anthropic Is Pushing States to Regulate AI Faster」と題した記事を公開した。この記事では、AI企業Anthropicが自社にも適用される厳しいAI規制を米国各州に積極的に働きかけている背景と、その動きをめぐる賛否について詳しく紹介されている。
「透明性の自主報告では不十分」——Anthropicが規制強化を求める理由
大手AIスタートアップが、自社に対して厳しい規制を求める——この一見矛盾した動きが、米国のAI政策をめぐる議論の焦点になっている。
Anthropicは昨年、カリフォルニア州とニューヨーク州でフロンティアAI(最先端の大規模AIモデル)に関する透明性要件の法制化を支持した。シリコンバレーの多くの企業がAIブームを阻害するとして反対したなか、同社はあえて規制推進側に立った。
しかし同社は今、その法律でさえ「すでに時代遅れ」だと判断し、さらに踏み込んだ規制を各州に求めている。
Anthropicの米国州・地方政府渉外責任者であるCesar Fernandezは、WIREDのインタビューでこう述べた。
「2025年の透明性重視の安全法案は非常に重要な出発点でしたが、AIシステムの能力が急速に進歩し続けるなか、政策対応もそれに合わせていく必要があります。最も強力なAIシステムに対しては、透明性と自主報告はもはや十分な安全対策ではないと考えています。」
同社がこれまでに支持した規制の主な内容は以下のとおりだ。
- カリフォルニア州・ニューヨーク州:AIモデルの透明性・自主報告要件
- イリノイ州:第三者監査機関によるAIラボの安全プロセス評価の義務化
- マサチューセッツ州:第三者監査に加え、不遵守企業への差止命令を州司法長官が求められる制度
「規制によるカルテル形成」批判との対立
この動きに対して、懐疑的な見方も根強い。トランプ政権でAI担当補佐官を務めたDavid Sacksは昨年、Xへの投稿でAnthropicを名指しして批判した。
「Anthropicは恐怖煽りに基づく巧妙な規制キャプチャ戦略を展開している。スタートアップのエコシステムを損なっている州の規制乱立に、主な責任がある。」
規制キャプチャ(regulatory capture)とは、規制の恩恵を受ける大企業が自社に有利なルール作りを誘導し、競合の新規参入を阻む現象を指す。Anthropicが支持する法案の多くは、数億ドル規模の開発投資と年間5億ドル以上の収益を持つ企業を対象としており、既存の小規模スタートアップには適用されない。Fernandezはこの点を根拠に規制キャプチャ批判を否定している。
ただし、Safe Superintelligence、Thinking Machines Lab、Mistralといった企業はすでに数十億ドルの資金調達を終えており、近い将来この閾値に達する可能性もある。潜在的な競合他社が規制の網に引っかかる構造になるという指摘は、完全には否定しきれない。
「モデルの展開停止権限」は連邦政府のみに
規制推進に積極的なAnthropicだが、一方で「州政府がAIモデルの展開を禁止する権限」については慎重な立場をとっている。同社が先月公開したポリシー文書では、安全でないと判断されたAIモデルの展開をブロックする仕組みを政府が持つべきだと提言しつつも、その権限は連邦政府に限定すべきだとしている。
これはやや皮肉な状況でもある。元記事によれば、トランプ政権はAnthropicに対して最新モデルを外国人向けに停止するよう輸出規制上の指示を出しており、Anthropicがその決定を快く受け入れなかった経緯があるとされている。
雇用・データセンター・子どもへの影響——有権者の懸念には沈黙
AIによる雇用喪失、地域へのデータセンター設置の影響、子どもへのチャットボットの影響——これらは米国の有権者が実際により多く懸念している問題だ。しかしAnthropicをはじめとするフロンティアAIラボは、こうした問題に関する州法成立に向けた組織的なロビー活動は行っていない。
Fernandezは「これらの問題について立法者と積極的に議論したい」と語るが、カタストロフィックリスクへの対応と同水準の政治的エネルギーは、まだ注がれていないのが実情だ。
Anthropicの動きが誠実な安全重視の判断なのか、それとも市場での優位性確立を狙った戦略なのか、判断は分かれる。ただ、連邦議会が法制化を停滞させるなか、同社が米国のAI政策形成に実質的な影響力を持ち始めていることは否定できない。
詳細はHere's Why Anthropic Is Pushing States to Regulate AI Fasterを参照していただきたい。