7月17日、AWSが「Introducing Grok on Amazon Bedrock」と題した記事を公開した。xAIのGrok 4.3がAmazon Bedrockに正式追加され、エンタープライズ・エージェントワークロード向けに利用可能になったことを詳しく紹介している。
xAIがAmazon Bedrockのモデルプロバイダーに加わった
xAIのGrok 4.3がAmazon Bedrockで一般提供(GA)となった。 Grok 4.3は、2025年時点でxAIが提供するGrokシリーズの最新世代にあたるフロンティアモデルであり、今回のBedrock統合により企業向けワークロードでの採用がしやすくなった。xAIはこれによりAmazon Bedrockの正式なモデルプロバイダーとして参加する。Grok 4.3の主な特徴は、100万トークンのコンテキストウィンドウ、テキスト・画像の入力対応、そしてリクエストごとに推論量を調整できる「Configurable Reasoning Effort」だ。
モデルは従来のAmazon Bedrock Runtime APIではなく、Mantleと呼ばれるAmazon Bedrockの次世代推論エンジン上で動作する。従来のBedrock Runtime APIはAWS独自のInvokeModel形式を採用しており、各モデルプロバイダーの入出力スキーマに合わせたラッパー実装が必要だった。これに対しMantleはOpenAI互換APIをネイティブに採用しており、既存のOpenAI SDKや直接のHTTPSリクエストをそのまま転用できる。xAIがOpenAI互換を選択した背景には、エンタープライズ側の既存資産(OpenAI SDKを使ったコードベース)への移行コストを最小化するという狙いがある。
ベンチマーク上の立ち位置
xAIの自社発表によれば、Grok 4.3はリリース時点において以下のベンチマークで1位を獲得していると主張している。
- Artificial Analysis Omniscience:フロンティアモデル中で最低のハルシネーション率
- Artificial Analysis Tau2 Telecom:カスタマーサポートシナリオにおけるツール呼び出し
- Vals AI Case Law / Corporate Finance:文書理解タスク
Artificial AnalysisやVals AIはモデル評価プラットフォームとして知られているが、ベンチマーク結果はテスト設計・評価時期・対象モデルの選定に強く依存する点に留意が必要だ。ハルシネーション率や文書理解の指標は特に測定手法によって結果が大きく変わりうるため、自社のユースケースに即した独自評価を合わせて行うことを推奨する。
また、xAIは「他のフロンティアモデルと比較して1ドルあたり2〜10倍のインテリジェンス」とコスト効率を主張しているが、これはxAI自身による比較であり独立した検証ではない点を念頭に置きたい。コントラクトレビュー、与信契約分析、金融文書への質問応答といったユースケースを想定した設計だ。
アクセス方法:OpenAI SDKがそのまま使える
MantleエンドポイントはリージョンごとのURLを持つ。us-west-2の場合は以下の通りだ。
https://bedrock-mantle.us-west-2.api.aws/openai/v1
認証方法は2種類ある。探索・検証用途にはAmazon Bedrock APIキー(長期クレデンシャル)、本番環境にはIAMクレデンシャルから生成する短期Bearerトークンを推奨している。
pip install openai
from openai import OpenAI
client = OpenAI(
api_key="<your Amazon Bedrock API key>",
base_url="https://bedrock-mantle.us-west-2.api.aws/openai/v1",
)
response = client.chat.completions.create(
model="xai.grok-4.3",
messages=[
{"role": "user", "content": "In one sentence, what is Amazon Bedrock?"}
],
)
print(response.choices[0].message.content)
短期トークンを使う場合はaws-bedrock-token-generatorパッケージを利用する。
from aws_bedrock_token_generator import provide_token
from openai import OpenAI
client = OpenAI(
api_key=provide_token(region="us-west-2"),
base_url="https://bedrock-mantle.us-west-2.api.aws/openai/v1",
)
なお、OpenAI標準仕様からデフォルト値が3点異なる点に注意が必要だ。temperatureが0.7(OpenAI標準は1)、top_pが0.95(同1)、max_completion_tokensが131072に設定されている。アプリケーション側で明示的に上書きすることを推奨している。
エンジニアが最初に触るべき機能:Configurable Reasoning Effort
Grok 4.3の実装上の肝は推論量の制御だ。Responses APIのreasoningパラメータでnone/low/medium/highの4段階を指定できる。
response = client.responses.create(
model="xai.grok-4.3",
reasoning={"effort": "high"},
include=["reasoning.encrypted_content"],
max_output_tokens=4096,
input=(
"A bat and ball cost $1.10. The bat costs $1 more than the ball. "
"How much is the ball? Answer with just the number."
),
)
print(response.output_text)
print(response.usage.output_tokens_details.reasoning_tokens)
この例はCognitive Science界隈でよく知られる「直感的な誤答($0.10)を引き出しやすい問題」で、high設定では正しく代数を解いて$0.05を返す。usageブロックで消費した推論トークン数も確認できる。
実用上のパターンとして、記事では以下の使い分けを提示している。
- **
noneまたはlow**:分類・抽出・短い事実確認など、レイテンシ優先のタスク - **
high**:計画立案・数学・連鎖タスクなど、途中のミスが全体に影響するケース
Chat Completions APIは推論トレースを返さない。推論内容をターン間で持ち越したい場合はResponses APIを使う必要がある。
ツール呼び出し・構造化出力・マルチターン
ツール呼び出しはOpenAI互換の形式をそのまま使う。JSON Schemaでツールを定義し、モデルが呼び出しを判断して引数を返す標準的なパターンだ。
構造化出力はjson_schemaフォーマットとstrict: Trueの組み合わせで、スキーマに準拠したJSONレスポンスを強制できる。記事では、テスト中に無害なリクエストでもコンテンツ安全チェックの400エラーが返ることがあったとして、本番コードへのリトライ実装を推奨している。
ステートフルなマルチターン会話はResponses APIのstore=Trueとprevious_response_idで実現する。会話履歴の全送信が不要になり、推論内容もサービス側で自動的に次ターンへ引き継がれる。ただし、ターンの保存はサービス側に状態が残ることを意味するため、データ保護要件があるワークロードはAmazon Bedrockのデータ保護ドキュメントを確認する必要がある。
サービスティアと提供リージョン
Grok 4.3はStandard(オンデマンド従量課金)、Priority(処理キューで優先扱い・単価高)、Flex(非時間敏感ワークロード向け低コスト)の3ティアで利用できる。
詳細はIntroducing Grok on Amazon Bedrockを参照していただきたい。