7月15日、PYMNTSが「Business Applications Jump 24% as AI Lowers Startup Costs」と題した記事を公開した。この記事では、ChatGPT登場以降に米国の新規ビジネス申請が24%増加し、AIが起業コストを引き下げることで事業規模の最小閾値が低下している実態について詳しく紹介されている。
ChatGPT登場後、新規ビジネス申請が24%増
Citadel Securitiesが7月に公開したリサーチノートによれば、2025年の米国新規ビジネス申請件数は560万件に達し、ChatGPTのリリース以降で24%増加した(データ出典:米国勢調査局)。
注目すべき数字がもう一つある。ChatGPTリリースの1四半期後にあたる2023年第1四半期、シードステージのスタートアップにおける従業員数の中央値が5人から4人に減少した。Citadelはこの変化が金利上昇や採用需要の軟化とも重なると指摘しつつ、AIによる業務代替の影響を示唆している。
Citadelの試算では、スタートアップ1社あたりの労働集約度が下がった分は、新規創業件数の増加でほぼ相殺されているという。CitadelのアナリストFrank Flightは「この恩恵は米国経済の根幹である中小企業と起業家に最も強く及ぶ可能性がある」と分析している。
創業時ゼロ・現在2人体制で売上4億100万ドルの事例
この変化を象徴するのが、Matthew Gallagherが立ち上げたGLP-1(肥満治療薬)テレヘルススタートアップのMedviだ。
Gallagherは2024年9月、ロサンゼルスの自宅から資本金2万ドル・従業員ゼロでMedviを創業。その後、弟のElliotを初めての採用として加え、現在は2人体制で運営している。この創業期のゼロから2人への移行を経たうえで、初年度に売上4億100万ドル、顧客数25万人、純利益率**16.2%**を達成したという。2026年の売上は18億ドルペースで推移しているとされる。
なお、この売上数字はPYMNTSの元記事が紹介したものであり、外部機関による独立した検証は現時点では確認できない。また、4億100万ドルの円換算は適用レートによって大きく変わる点に注意が必要だ。150円/ドル換算では約601億円、かつての100円/ドル水準では約401億円となる。本記事のタイトルは2025年前後の実勢レートに近い150円換算を採用している。
比較として、同じGLP-1テレヘルス領域の競合であるHims and Hersは昨年24億ドルの売上を2,442人の従業員で達成したが、純利益率は**5.5%**にとどまった。Gallagherは2人体制を維持しつつ、Hims and Hersの約3倍の利益率を出している形だ。
使用したツールはいずれも市販のSaaSだ:
- コード・コピーライティング:ChatGPT、Claude、Grok
- 広告クリエイティブ:Midjourney、Runway
- 音声カスタマーサポート:ElevenLabs
- システム連携:カスタムAIエージェント
医師ライセンス、処方処理、調剤といった規制対応が必要な領域はCareValidateとOpenLoop Healthに外部委託し、顧客との関係性のみを自社で保持した。テレヘルス事業でも法規制対応は避けられないが、専門パートナーに切り出すことで初期資本を成長投資に集中できた点が鍵だ。
「雇用の消滅」ではなく「雇用の先送り」
AIによる雇用破壊を懸念する声は根強いが、Citadel Securitiesが4月に公開した別の分析では異なる構図が見えている。S&P500企業の決算説明会での発言を分析したところ、AIを「雇用の代替」として語る企業より「雇用の補完」として語る企業の方が、ほぼすべての職種で多数派だった。
Citadelの解釈はこうだ。「かつて5人が必要だったスタートアップが今は4人で動く。その1人分は消えたわけではなく、人間の判断が律速段階になるスケールに達するまで先送りされているだけだ」。
また、PYMNTS Intelligenceが2026年5月に公開した中小企業レポートによれば、年商100万ドル超のSMBは平均13.7%の売上成長を記録した一方、年商15万ドル未満の企業は0.6%にとどまった。デジタル活用度による二極化は、中小企業の間でも着実に広がっている。
AIが下げているのは「アイデアのハードル」ではなく、事業を成立させるための最小規模(minimum efficient scale)だ。これはエンジニアが副業や個人開発でプロダクトを立ち上げる文脈とも直結する話であり、統計の背景にある構造変化として押さえておきたい。
詳細はBusiness Applications Jump 24% as AI Lowers Startup Costsを参照していただきたい。