7月15日、The Decoderが「OpenAI's first hardware product is a screenless AI speaker designed to feel alive」と題した記事を公開した。OpenAIが初のハードウェア製品として開発中なのは、スマートフォンでも眼鏡でもなく、スクリーンすら持たないAIスピーカーだ。「生きているように感じさせる」という設計思想の背景には、AIとの関係性を根本から再定義しようとするOpenAIの野心がある。一方で擬人化(アンソロポモーフィズム)のリスクやAppleからの訴訟など、製品の前途には複数の課題が立ちはだかっている。
「生きているように感じる」スピーカー
Bloombergの報道によれば、OpenAIが開発中のデバイスは持ち運び可能なスクリーンレスのスマートスピーカーだ。スマートホーム機器の制御、メディア再生、質問への回答、メッセージ処理、そしてChatGPTの全機能へのアクセスが想定されている。
OpenAI社内ではこの製品を「AIの時代における新たな家庭用コンピューター」と位置づけている。カメラとその他のセンサーを搭載し、ユーザーの周囲の状況や文脈を把握する設計だ。従来のスマートスピーカーと異なる点として、充電式バッテリーを内蔵しており、部屋から部屋へ持ち運べる。
最大の特徴は「パーソナリティ」にある。ユーザーのことを学習するにつれて、よりパーソナライズされた挙動を示す設計で、メールなどの個人データにアクセスしながらニーズを先読みし、自発的に情報を提供することを目指している。
さらに、自律的に動く機械的な可動パーツを搭載するという。コマンドに反応するだけの「物体」ではなく、「生き物」として感じられることを目標としている。CEOのSam Altmanが映画「Her」のコンピューターのようなものを作りたいと語っていたことと、方向性は一致している。
リアルタイム会話には、元記事公開時点でOpenAIが直近に発表したGPT-Live(ChatGPT Voice Modeの拡張版)を使用する。GPT-Liveは同時に「聞きながら話す」ことが可能で、より自然な会話の流れを実現する。
擬人化(アンソロポモーフィズム)への懸念
このような強度の擬人化設計については、批判も存在する。OpenAIの過去のケースとして、極端にお世辞を言うGPT-4oモデルがユーザーの妄想を助長した問題が起きており、AIの擬人化が精神病的エピソードを引き起こす可能性も指摘されている。「生きているように感じさせる」設計は、その延長線上にある。
AIが自発的に情報を提供し、ユーザーを学習し、物理的に動くパーツで存在感を示す——こうした設計要素が重なるほど、ユーザーがデバイスに対して過度な感情的依存を形成するリスクも高まる。製品コンセプトの魅力と表裏一体の問題として、OpenAIがどのような安全設計を講じるかは今後の注目点だ。
Appleの訴訟が2027年のリリースを遅らせる可能性
元記事公開の直前、AppleがOpenAIを営業秘密の盗用で提訴した。訴訟の焦点の一つは、OpenAIのチーフハードウェアオフィサーであり、ハードウェア子会社「io Products」の共同創業者でもあるTang Tanだ。io ProductsはOpenAIのハードウェア開発を担う子会社で、元Appleデザイン責任者のJony Ive率いるデザインファームLoveFromとも密接に連携しており、同社のハードウェア戦略の中核を担っている。Tan自身もかつてAppleでiPhone製品デザインを統括していた人物だ。
Appleは、Tanが将来のApple製品に関する機密情報を入手するための工作を行い、元Appleエンジニアがシステムに不正アクセスして技術プレゼン資料を取得したと主張。OpenAIのハードウェア事業を「腐敗した根を持つ」と断じている。
OpenAI側はこれを否定し、証拠はなく、開発中のデバイスはApple製品とは根本的に異なり、営業秘密を侵害していないと主張している。Appleも、実際にOpenAIが技術を使用したかどうかは証拠開示手続きを経なければ判断できないと認めている。なお、元記事公開時点(2026年7月15日)では訴訟は提起されたばかりであり、司法判断は下されていない。
Bloombergによれば、OpenAIは2025年中にデバイスを発表し、2027年にリリースする計画だ。Appleはハードウェア開発の差し止めを求めており、訴訟の行方次第でリリースが遅延する可能性がある。
AIスピーカーはあくまでスタート
このスピーカーはOpenAIのハードウェア展開の皮切りに過ぎない。Bloombergによれば、OpenAIのハードウェア部門は約5つの製品を開発中であり、スマートフォンを代替するポータブルAIデバイス、ウェアラブルペンダント、ホームロボティクスなどが含まれるという。
一方、Appleも7インチディスプレイ・顔認証・新OSを搭載したスマートホームコマンドセンターを含むAIフォーカスのホームデバイスシリーズを準備中だ。ロボットアームにマウントされたディスプレイ搭載版やスマートホームセキュリティシステムも開発中とされており、両社の競争はハードウェア領域でも本格化しつつある。ソフトウェアでAIをめぐる覇権を争ってきた両社が、今度は家庭空間というフィジカルな戦場で正面から衝突する構図だ。
詳細はOpenAI's first hardware product is a screenless AI speaker designed to feel aliveを参照していただきたい。