7月14日、Techstrong.AIが「US Weighs New Restrictions on AI Model Copying by Chinese Firms」と題した記事を公開した。AnthropicはAlibabaによる数百万件に及ぶ不審なインタラクションを検出し、連邦当局に警告を発した。米国政府はこの「AIモデル蒸留」問題を国家安全保障の文脈で捉え始め、規制の新たな政策ツールの検討を進めている。
焦点は「蒸留」——安く作れるから問題になる
AI蒸留(distillation)とは、既存の高性能AIモデルの出力データを大量に収集し、それをもとに別のモデルを低コストで構築する手法だ。本来は研究用途で、大規模モデルを小型・効率化するために広く使われてきた技術である。
問題は、この手法が「フロンティアAI(最先端AI)」の開発コストを根本から回避する手段として機能する点にある。最先端モデルの学習には数十億ドル規模のコンピューティングインフラと技術者が必要だが、蒸留を使えば競合はその大部分のコストを負担せずに近い性能を実現できてしまう。
米国政府はこの問題を国家安全保障の文脈で捉え始めており、政権内で国家安全保障会議レベルの議論が行われているという。
AnthropicとOpenAIが政府に警告
この問題を政策課題に押し上げたのは、主要AI企業の働きかけだ。
Anthropicは6月末、連邦当局への書簡の中で、中国のAlibabaが自社AIシステム「Claude」から「産業規模のデータ抽出キャンペーン」を実施したと主張した(関連記事)。同社が検出したのは数百万件に及ぶ不審なインタラクションで、偽アカウントや匿名ネットワークを使った組織的な行為だとしている。また、Moonshot AIやMiniMaxといった中国企業も同様の活動に関与していると名指しした。
OpenAIは今年初め、中国スタートアップのDeepSeekが自社モデルを無断使用して研究成果を流用しようとしたと批判している。
Googleも、大量のモデル出力を抽出しようとする試みの増加を確認し、「IPの盗用」と表現している。
米政府当局者は非公式の場で、不正な蒸留が米AI企業に年間数十億ドル規模の損害をもたらしていると試算しているという。この試算は政府当局者の非公式な発言に基づくものであり、独立した検証は現時点では確認されていない。ある情報筋はAnthropicの立場に触れながら、「蒸留がなければ、中国のトップモデルは米国の主要モデルに対して、現在よりはるかに大きな遅れをとっていただろう」と述べている。
政府・議会の動き
ホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)長官を務めるマイケル・クラトシオス氏は、開発者が自社モデルを小型化する目的での蒸留は正当な行為だと認めつつも、「米国企業が開発したイノベーションを抽出する行為は別問題であり、政策上の対応が必要だ」との立場を示している。
議会側でも動きがある。不正な蒸留を行った組織に対して制裁を授権する法案を提案する議員が出てきている。
中国側は反論している。駐米中国大使館は、こうした主張を「根拠がない」として退け、中国のAI産業を弱体化させようとする試みだと批判した。
AIと著作権——業界が抱える自己矛盾
この問題が持つ皮肉な側面も見逃せない。
モデルの無断コピーに対してより強い保護を求めているAnthropicやOpenAIといった企業は、自らのモデルを膨大なインターネットコンテンツで学習させており、その手法は現在も著作権訴訟の対象となっている。代表的なものとして、New York Times社がOpenAIとMicrosoftを相手取り起こした訴訟(関連報道)や、著作家・ジャーナリストらによる集団訴訟が進行中だ。これらはいずれも、AIの学習データ収集における「許諾なき利用」の適法性を問うものであり、蒸留規制の議論と構造的に共鳴している。
コロンビア大学ロースクールなど複数の法学者は、「両方の議論は究極的には同じ問いに行き着く——どこまでが正当な学習で、どこからが無断コピーになるのか」と指摘する。規制の議論が進む中で、この矛盾はAI業界全体にとって向き合わざるを得ない問題として残り続ける。
詳細はUS Weighs New Restrictions on AI Model Copying by Chinese Firmsを参照していただきたい。