7月14日、The Decoderが「ChatGPT returns to WhatsApp in Europe after EU forces Meta to open the door to rival AI bots」と題した記事を公開した。
EUの規制当局がプラットフォームのAI競争に直接介入し、MetaにChatGPTの復帰を強制するという前例のない事態が起きた。2023年に施行されたデジタル市場法(DMA)が「単なる規制の宣言」ではなく、実際にAIの配信チャネルを巡る競争を塗り替える実効力を持つことを示した最初のケースとして注目される。
EUの強制措置でChatGPTがWhatsAppに帰還
OpenAIは2026年7月13日より、ChatGPTをWhatsApp上で欧州経済領域(EEA)限定で再び利用可能にした。EEAはEU加盟27カ国にリヒテンシュタイン、アイスランド、ノルウェーを加えた30カ国で構成される。
利用方法はシンプルで、検証済み連絡先「1-800-CHATGPT(+1-800-242-8478)」にメッセージを送るだけだ。アカウント登録は不要で、テキスト入力、画像アップロード、音声メッセージ、画像生成が複数言語で動作する。
元記事筆者がボットに直接確認したところ、動作モデルはGPT-5.5と回答する。また画像生成については、プロンプトの精度から判断してgpt-image-2にルーティングされているとみられる。WhatsAppアカウントをChatGPTアカウントにリンクすることで、OpenAI側のコンテキスト取得やメッセージ履歴の同期も可能になる。

なお、アカウント未リンク時の利用上限の詳細はまだ明確でない。OpenAIがコストを抑えるため、内部的に旧世代モデルへ静かにルーティングしている可能性も否定できない。
背景:MetaによるBANとEUの介入
もともとChatGPTはWhatsApp上で利用できていたが、2026年1月15日にMetaが利用規約を変更し、ChatGPTをプラットフォームから締め出した。 Microsoft CopilotやPerplexityも同様に排除され、WhatsApp上に残ったのはMetaのAIアシスタントのみとなった。
これに対し欧州委員会は2026年6月、**暫定措置命令**を発動した。暫定措置命令とは、正式な違反認定手続きの完了を待たずに、競争上の深刻な損害を防ぐために欧州委員会が緊急的に課すことのできる命令であり、DMA第26条に基づく。Metaに対し、競合AIを無償でプラットフォームへ再参入させるよう強制したのはこの命令によるものだ。
命令の根拠となっているのが**DMA(デジタル市場法)**だ。DMAは2022年にEU議会で成立し、2023年5月に施行された。その中核にあるのが「ゲートキーパー」制度で、一定規模以上のプラットフォーム事業者をゲートキーパーとして指定し、自社サービスの優遇や競合排除を禁じている。MetaはWhatsApp・Instagram・Facebook Marketplaceを含む複数サービスでゲートキーパーに指定済みだ。
DMAはすでにAppleのApp Store手数料体系やGoogleの検索結果表示に対しても適用が進んでおり、AIの配信チャネルを巡る競争への介入は今回が初めてとなる。日本を含む非EU圏の読者にとっては直接適用される法律ではないが、グローバルなプラットフォーム企業がEU市場向けに仕様変更を迫られると、その変更が他地域にも波及することが多い点は注視に値する。
規制が競争環境を塗り替えた構図
今回の件が示しているのは、DMAが単なる宣言にとどまらず、プラットフォームのAI競争に直接介入する実効力を持つという点だ。MetaはWhatsAppという月間アクティブユーザー30億人超の巨大な配信チャネルを自社AIの独占的な出口にしようとしたが、EUの介入でその戦略に待ったがかかった形となる。
OpenAIもWhatsApp復帰にとどまらず、韓国のKakaoメッセンジャーや他市場でのViberへのChatGPT展開を進めており、メッセンジャーアプリを主要な接触点として位置づける戦略が鮮明だ。
MetaにとってはAI戦略上の痛手でもある。同社は自社AI「Meta AI」をWhatsApp・Instagram・Messengerに統合し、EU域内での普及を図ってきた経緯がある。競合AIが同一プラットフォーム上に並立することは、ユーザーの比較を容易にし、Meta AIの差別化を難しくする。EUが今回示した「ゲートキーパーはAIの出口を囲い込めない」という原則が他地域にも広がるかどうかが、今後のAIプラットフォーム競争の行方を左右する一つの論点となりそうだ。
詳細はChatGPT returns to WhatsApp in Europe after EU forces Meta to open the door to rival AI botsを参照していただきたい。