7月14日、SiliconAngleが「Chai Discovery nabs $400M Series C as AI-designed antibodies reach Big Pharma」と題した記事を公開した。AI創薬スタートアップのChai DiscoveryがシリーズCラウンドで4億ドル(約580億円)を調達し、Pfizer・Eli Lilly・Novartisとの商業契約が揃い踏みしたことで「AI創薬は約束から展開へ移行した」とCEOが宣言している。
AI設計抗体が大手製薬に到達、評価額は38億ドルへ
Chai Discoveryは、生化学分子間の相互作用を予測するAIモデルを開発するスタートアップだ。同社はシリーズCで4億ドル(約580億円)を調達し、評価額を38億ドル(約5,700億円)へと約3倍に引き上げた。
ラウンドはIndex VenturesがリードをとりKleiner Perkins、Sequoia Capital、Dimensionが並走。新規投資家にはBain Capital Ventures、Battery Ventures、Baillie Giffordらが名を連ねる。既存投資家にはThrive Capital、OpenAI、General Catalystなども含まれており、2025年12月に1.3億ドルを調達してからわずか半年余りでの大型追加調達となる。累計調達額は約6.3億ドルに達した。
Chai-3の実力——約100京通りの抗体候補から正解を引き出す
Chai Discoveryが注力するのは抗体設計だ。抗体とは、体内で異物(病原体など)を識別・無力化するタンパク質で、医薬品としても広く使われる。問題は、抗体の構造上のカスタマイズパターンが約100京通り(10の18乗)に上ることだ。従来のアプローチでは数百万の候補分子を1つずつスクリーニングするしかなかった。
Chai Discoveryのアプローチは、疾患ターゲットに基づく高速シミュレーションで「最初からあたりをつける」点が異なる。ランダムな候補を並べるのではなく、膨大な可能性空間から高品質な候補を絞り込んで生成する仕組みだ。なお同領域では、DeepMindのスピンオフであるIsomorphic Labsや、AIと従来の実験手法を組み合わせるRecursion Pharmaceuticalsなども独自のアプローチで競合している。
最新モデルのChai-3は前世代のChai-2から「大幅な飛躍(step-change)」と同社は主張する。分子相互作用ターゲットにおける成功率を倍増させ、**ヒット率35〜40%**を達成したとしている。
Pfizer、Eli Lilly、Novartisとの商業契約が示す実用化の段階
今回の調達で注目すべきは、技術の成熟度よりも商業化の実態だ。
- Pfizer とはChai-3のライセンス契約に加え、Pfizerの独自データで訓練したAIモデルの提供契約を締結
- Eli Lilly とはバイオロジクス探索加速に向けた顧客契約を締結
- Novartis とは正式なパートナーシップを締結
製薬大手3社との契約が揃い踏みしたことで、CEOのJoshua Meier氏は「AI創薬は約束から展開へ移行した」と述べている。
業界全体の課題——承認薬はまだゼロ
一方で、業界全体が直面する壁も記事は正直に記している。Excelraのレポートによれば、生成AI創薬に約200億ドルが投下されてきたにもかかわらず、AIが発見した薬はまだ1件も承認されていない。
臨床開発中のAI発創薬プログラムは2023年時点の約24件から173件以上に増加し、2026年中に15〜20件が実用試験(working trials)に到達する見込みとされる。
問題はフェーズII以降だ。AI駆動の創薬はフェーズIの通過率が80〜90%と高いが、フェーズIIでは40%程度まで落ち込む。これは従来手法と大差ない水準で、臨床試験における候補化合物の挙動を深く理解することが次の課題となっている。
技術的な精度向上と、臨床での有効性証明の間にある溝を埋めることが、Chai Discoveryを含む業界全体に残された宿題だ。
詳細はChai Discovery nabs $400M Series C as AI-designed antibodies reach Big Pharmaを参照していただきたい。