7月14日、Search Engine Journalが「ChatGPT Access Tied To 9% Drop In Traditional Search」と題した記事を公開した。この記事では、ChatGPTへのアクセス拡大が従来の検索エンジン利用を統計的に減少させたことを示す研究について詳しく紹介されている。
データの出所
この研究はボッコーニ大学(Bocconi University、イタリア・ミラノの経済大学)の研究者が実施したもので、Comscoreのクリックストリームデータ(ユーザーがどのサイトをどの順番で訪問したかを記録したデータ)を用いて、米国のデスクトップブラウジング行動を分析した。論文はarXivで公開されており、観測可能なトラフィック配分の変化を実証的に測定した点が特徴だ。
9%減という数字の中身
ChatGPTのSearch機能へのアクセスが段階的に解放されたのは以下のタイミングだ。
- 2024年10月:有料サブスクリプションユーザーへ開放
- 2024年12月:無料ユーザーへ開放
- 2025年2月:匿名ユーザーへ開放
このアクセス拡大の影響を測定した結果、週次の従来型検索クエリが平均9.4%減少した。20週後にはその減少幅が**17%**に達している。
ChatGPTをすでに利用していたユーザー同士を比較した場合でも、平均4.9%の減少(20週後には8.2%)が確認された。つまり「ChatGPT利用者が増えた」という母集団の構成変化だけでは説明できない減少が起きており、既存ユーザーの行動そのものが変化していることを示している。
カテゴリ別では、情報検索系の落ち込みが最も大きく、学術研究分野の検索が32.8%減、リファレンス系が26.5%減。一方、商品購入や娯楽目的のトランザクション・レクリエーション検索はほとんど変化していない。調べる・学ぶという用途においてはAIが検索エンジンの代替として機能しつつある一方、購買行動や娯楽消費はまだ従来の検索に依存している構図だ。
ChatGPTとGoogleで「リンク先」が違う
ChatGPTはセッションの**5.2%で外部サイトへの誘導が発生しているのに対し、Google検索では31.1%**だ。参照率そのものはまだGoogleの方が高いが、ChatGPTの月次リファレンス率は計測期間中に約2.5%から約6.5%まで上昇しており、伸び幅は明確だ。
誘導先の質的な違いも興味深い。Googleが参照するのはYouTube、Reddit、Wikipediaといった大手・広告依存型のサイトが中心であるのに対し、ChatGPTはリファレンスサイト、SaaSツール、学術・開発者向けサイトなどより専門性の高い小規模サイトに誘導しやすい傾向がある。ChatGPTからの流入は広告依存型サイトへの割合が27.6ポイント低い。
研究者自身はこのデータの解釈範囲について慎重にこう述べている。
私たちの主張は、福祉や消費者余剰、出版社収益、長期的なコンテンツ生産についての主張よりも意図的に狭い。観測可能なトラフィック配分の変化を測定しているにすぎない。
コンテンツ制作者への影響という未解決問題
この研究が最後に提起するのは、コンテンツの持続可能性という問題だ。AIが既存コンテンツを利用しながら、元サイトへの訪問を減らすという構造が固定化した場合、コンテンツ制作者が同じ規模で発信を続けるインセンティブが失われる可能性がある。
ただし研究者は、現在のデータが米国デスクトップに限定されている点を認めており、モバイルデータ、国際データ、収益記録が揃わなければ全体像の把握は難しいとしている。スマートフォンが主要な検索デバイスとなっている国・地域では、傾向が異なる可能性も残る。
なお、Pew Research Centerの調査ではAI要約が表示された場合にユーザーがリンクをクリックする頻度が大きく下がることが示されており、今回のボッコーニ大学の論文はその延長線上に位置づけられる研究だ。AIによる情報提供の拡大がウェブのトラフィック構造を変えつつあるという文脈において、実証データを持つ数少ない研究の一つとして注目に値する。
詳細はChatGPT Access Tied To 9% Drop In Traditional Searchを参照していただきたい。