7月13日、StartupHub.aiが「Project NANDA: Building an Open Internet for AI Agents」と題した記事を公開した。MITが開発を進めるAIエージェント向けオープンインフラ「Project NANDA」の構想と実装状況を詳しく紹介しており、マルチエージェントシステムの基盤設計に関心を持つエンジニアにとって注目に値する内容だ。
AIエージェント同士が「見つけ合う」インフラが必要になってきた
AIエージェントが単体で動く時代から、複数のエージェントが協調して動く時代へ移行しつつある。しかし現状では、あるエージェントが別のエージェントを発見し、信頼し、取引するための共通基盤が存在しない。これはちょうど、IPやDNSが登場する前のインターネットに似た状況だ。
MITのRamesh Raskarらが進めるProject NANDAは、この問題を解決するための「AIエージェントのためのオープンインターネット」構想である。
3層構造:Discovery・Commerce・Bazaar
Project NANDAのインフラは以下の3層で構成される。
- Discovery(発見) ── エージェント同士がどのように互いを見つけるか
- Commerce(取引) ── エージェント同士がどのように取引し、信頼を確立するか
- Bazaar(協調) ── エージェント同士がどのように協力し、集合的に改善するか
すでに各層のコンポーネントの一部が実装・公開されており、NANDAインデックス、レジストリ、プロトコル、そしてシミュレーター「NandaTown」が含まれる。
各層についてもう少し補足する。Commerce層は、エージェント同士が価値の交換や契約の締結を行う際の信頼・認証・支払いに関わる仕組みを担う。単なる通信プロトコルではなく、「誰が誰に何を依頼し、その対価をどう保証するか」という取引ロジックの標準化を目指している。Bazaar層は、複数エージェントが協調して問題を解くための集合知的な改善メカニズムを提供する。個々のエージェントが経験から学んだ知見を共有・蓄積することで、エコシステム全体のパフォーマンスが向上する設計思想に基づいている。
核心は「NANDAインデックス」── DNSとは異なるエージェント発見の仕組み
最も技術的に面白いのが、Discovery層の中心を担うNANDAインデックスだ。
プロジェクトメンバーのMaria Gorskikhは、エージェントを「ツールをループで使うモデル」と定義している。具体的には、目標を受け取り、アクションを選択し、ツールを呼び出し、結果を観察するというサイクルを繰り返す。エージェントが実際の作業を行うには外部ツールやアプリケーションへのアクセスが必要であり、ユーザーが制御できるオープンソース・セルフホスト型エージェントの重要性が強調されている。記事中では「Open Claw」がその代表例として言及されており、これはユーザー自身のインフラ上で完全に管理できるエージェント実装の一つだ。
問題は、分散した多数のエージェントが互いをどう発見するかだ。
従来のDNSはドメイン名をIPアドレスに変換するだけだが、NANDAインデックスはそれよりも情報量の多い「エージェントカード」を提供する。エージェントカードには以下の情報が含まれる。
- そのエージェントが持つケイパビリティ(能力)
- 動作ルール
- 通信プロトコル
メッセージの送受信は「メッセージボックス」を経由する設計になっており、認証・スパムフィルタリング・キューイングを担当する。プライベートな詳細情報が外部に露出しない仕組みだ。
また、名前解決のプロセスは適応的(adaptive)に設計されており、クエリを送るエージェントの種類、対象エージェントの現在の状態、アクセス権限に応じて動的に変化する。静的なマッピングではなく、コンテキストに応じた解決が行われる点がDNSとの大きな違いである。
現時点での実装状況
記事執筆時点で公開・実装済みのコンポーネントは以下の通りだ。
| コンポーネント | 役割 |
|---|---|
| NANDAインデックス | エージェント発見のための共有レイヤー |
| レジストリ | エージェントの登録・管理 |
| プロトコル | エージェント間通信の標準化 |
| NandaTown(シミュレーター) | エージェント協調のシミュレーション環境 |
エンジニアが注目すべき点
Project NANDAが目指すのは、特定企業が管理するクローズドなエージェントプラットフォームではなく、オープンなインフラとしてのエージェント間通信基盤だ。
元記事では、エージェント間の発見・取引・協調を可能にするこうしたレイヤーが、今後のマルチエージェントシステム開発において不可欠な基盤になりうると主張している。NANDAインデックスの仕様とプロトコル設計は、その意味で注視する価値がある。
※編集部の考察:OpenAIやAnthropicがそれぞれ独自のエージェント連携仕様を持ち始めている現状において、MITという学術機関からオープン標準を提案するという方向性は、かつてのWebの標準化プロセスと重なる部分がある。特定ベンダーへの依存を避けたいシステム設計者にとっては、動向を追う価値があるプロジェクトだ。
詳細はProject NANDA: Building an Open Internet for AI Agentsを参照していただきたい。