7月12日、The Next Webが「69% of Americans back public ownership of big AI firms」と題した記事を公開した。調査会社Verasightが2026年6月に1,690人の米国成人を対象に実施した調査で、69%がAI企業の株式50%を公的な政府系ファンドへ移転させる政策を支持すると回答した。テック業界の解雇が社会問題化するなか、AIがもたらす富の「所有権」をめぐる議論が、世論レベルで一つの臨界点を超えつつある。
約7割が「AI企業の株式半分を公有化すべき」と回答
Verasightの調査結果はCNBCが報じた。69%という数字は、公的所有に反対する層を大きく上回り、支持が超党派に広がっていることを示している。同社CEOのBenjamin Leff氏は「国民はこうしたファンドを、AI産業の利益を社会に還元する手段と見ている」と述べている。
※本稿タイトルでは「約7割」と表記しているが、調査上の数値は69%である。
公的な受け皿として想定されているのが、ソブリン・ウェルス・ファンド(Sovereign Wealth Fund、以下SWF)と呼ばれる政府系の運用基金だ。代表例としてはノルウェーの「Government Pension Fund Global」(運用残高約190兆円規模)が知られており、国民全体を受益者とする長期投資ビークルとして機能している。法案が想定するのは、これに類した米国版の公的ファンドにOpenAI・Google・Microsoftなど主要AI企業の株式半分を移転させ、配当収益を国民に還元するという構造だ。
なぜ今、この世論が生まれたのか
背景にあるのは労働市場の急速な悪化だ。2026年前半の米国における解雇のうち、約3分の1がテック業界由来であり、AIが原因として名指しされるケースが増えている。
Goldman Sachsのエコノミスト、Joseph Briggs氏の試算では、10年間のAI移行期を通じて労働力の9%超、約1,500万人が職を失う可能性があるとされる(※この数字は元記事に記載のある試算だが、引用元はGoldman Sachsのリポートであるため、原典も合わせて確認されたい)。
その一方で、同じ企業群がAI設備投資を過去最高水準に引き上げている。時価総額3兆ドル超のApple・Microsoftや、急成長するNVIDIAなど、AI関連銘柄の市場集中は著しい。「解雇と記録的投資の並存」という構図が、所有権をめぐる議論に説得力を与えている。
The Next Webはこの問題を以前からテック解雇とAIブームに取り残された人々として報じており、世論調査はその不満を反映している。
反論:私有財産の侵害と投資冷却リスク
批判論者は、株式の強制移転は「配当」の名目で行われる私有財産の没収だと指摘する。OpenAI・Google・Microsoftといった企業の株式50%を収用すれば、ベンチャー投資家や機関投資家の意欲が冷え込み、AI開発の拠点が海外に流出するという懸念も根強い。
前提への疑問もある。OpenAIのSam Altman CEOは「AIによる大規模失業は起こりにくい」と主張しており、もしそれが正しければ、大量失業を前提とした政策は問題設定を誤っていることになる。
調査手法の問題も指摘されている。企業に株式移転を「強制する」という表現で質問すれば、トレードオフを明示した場合とは異なる回答が得られる。抽象的な再分配は、具体的な政策より支持率が高く出やすいことは、世論調査の定説だ。
法案の行方と「オーバートン・ウィンドウ」の変化
上院議員バーニー・サンダースは2026年6月に「American AI Sovereign Wealth Fund Act」を提出しており、米国の主要AI企業の株式50%を公有化することを義務付ける内容だ。サンダース氏はこれを約7兆ドル規模のファンドと位置付け、「公的研究とインフラが今日のAIを支えたのだから、国民がリターンを受け取るべきだ」と主張している。同方向の動きとして、上院議員Ed Markeyの「AI Accountability Agenda」も「AI利益の分配」を六つの優先事項の一つに挙げている。
サンダース法案が今の議会を通過する見込みはない。国際的には、中国の裁判所が「AIを理由とした解雇は不当」と判決を下したが、米国やEUに同等の保護措置はない。
それでも、この調査結果が示すのは「国民がAIの利益に対して何らかの請求権を持つべきか」という問いが、すでに終わっているという事実だ。議論はすでに「権利の有無」から「どのような形で権利を実現するか」に移っている。
AIが雇用を奪うかどうかを業界が論じている間に、有権者は「請求書を誰が払うか」の議論に進んでいた。
詳細は69% of Americans back public ownership of big AI firmsを参照していただきたい。