7月11日、CNBCが「AI is entering a new phase」と題した記事を公開した。AI関連株の評価軸が「支出拡大」から「費用対効果」へと静かに塗り替えられつつあり、ウォール街の投資家心理は新たなフェーズへと移行している。
「AIへの支出拡大」では株価が上がらなくなってきた
CNBCのInvesting ClubにおいてPaulina LikosとZev Fimaが指摘するのは、ウォール街の姿勢の根本的な変化だ。2023〜2025年にかけて、AI関連支出の拡大計画を発表した企業は市場から高く評価されてきた。ChatGPTの登場以降、AIインフラへの積極投資は「将来の競争力への布石」として株価を押し上げるシグナルとして機能していた。しかし現在、その前提が崩れつつある。
記事では、この変化を「合理化フェーズ(rationalization phase)」と呼んでいる。市場が問いかけているのはもはや「どれだけ投資するか」ではなく、「その投資はリターンをもたらしているか」だ。
この転換が2026年時点で顕在化した背景には、複数の要因がある。大手テック企業が数年にわたって積み上げてきたAI関連の資本支出が、投資家から具体的な収益貢献の説明を求められる段階に入ったこと、また競合モデルの低価格化・軽量化が進んだことで「最先端モデルを使い続けることの合理性」が問われるようになったことが挙げられる。決算シーズンのたびにAIのROI(投資対効果)が焦点となる流れは、今後も続くとみられる。
合理化フェーズを形成する3つの動き
1. ハイパースケーラーへのROI圧力
Amazon、Alphabet、Microsoft、Metaといった大手クラウド・テック企業(いわゆるハイパースケーラー:膨大なデータセンターとインフラを保有し、クラウドサービスをグローバル規模で提供する超大手企業群)が、資本支出計画の正当性を問われ始めている。これまでは「AIに投資する」と表明するだけで株価が反応したが、今後は具体的な収益貢献の説明が求められる局面に入っている。
各社は直近の決算において、データセンター建設や半導体調達に数百億ドル規模の支出を続けていることを開示している。こうした支出がいつ・どのような形で業績に反映されるかを投資家が問い始めており、「AIへのコミットメント」だけでは市場を納得させられなくなっている。
2.「トークン最大化」から「トークン最適化」へ
AIを導入している企業の関心が、とにかくAIを使いまくる「token maxxing」から、生産性を最大化する「token optimization」へとシフトしている。
「token maxxing」とはAI業界で使われる俗語で、コストや効率を度外視してAIモデルを最大限に活用しようとするアプローチを指す。対してtoken optimizationは、同等の成果をより少ないトークン消費・低いコストで達成することを目指す考え方だ。企業のAI活用が実務に根付いてきたことで、「とにかく使う」から「賢く使う」への転換が進んでいる。この変化はAIサービスの単価やAPIの利用量にも影響を与え得るため、AI関連企業の収益モデルを再考するきっかけにもなっている。
3. フロンティアモデルは一部用途にしか必要ない
最高性能の最先端AIモデル(フロンティアモデル)が本当に必要なのは、科学研究やソフトウェアエンジニアリングといった高度に専門的な用途に限られるという見方が広まっている。多くのユースケースでは、より軽量・低コストなモデルで十分だという認識だ。
この動きはAIモデルのコモディティ化議論とも連動している。実際、2025年以降は各社から低コストかつ高性能な小型モデルが相次いでリリースされており、「最高スペックを使い続けることが最善」という前提は崩れつつある。フロンティアモデルを提供する企業にとっては差別化圧力が高まる一方、推論コストの低下はAI活用の裾野を広げるという側面もある。
投資家への示唆:評価軸が変わるとき、何を見るべきか
この3つの変化が、CNBCのInvesting Clubポートフォリオに含まれるAI関連銘柄にどう波及するかが記事の主眼だ。具体的な銘柄分析は動画コンテンツで詳しく解説されている。
市場の目が「支出額」から「費用対効果」に移ったことは、AI関連株の評価軸そのものが変わることを意味する。これまでインフラ投資の規模を誇示することで株価を維持してきた企業は、今後の決算でどれだけ具体的なROIを示せるかが問われる。逆に言えば、AIを「使う側」の企業が効率化や収益貢献を明示できれば、市場からの評価を得やすい環境になってきているとも言える。
また、token optimizationの潮流は、AIインフラ企業よりも「AIを業務に深く組み込み、その効果を定量化できる」エンタープライズ系企業への注目を高める可能性がある。AIバブルの崩壊という話ではなく、投資マネーの流れが成熟・精緻化されていく過程として捉えるべき局面だろう。
※編集部の考察:上記の評価軸転換は日本市場にも無縁ではない。国内でもAI関連銘柄への期待先行の評価が続いてきたが、今後は「どのような収益モデルでAIを活用しているか」を問う視点が投資判断に組み込まれていくと考えられる。
詳細はAI is entering a new phaseを参照していただきたい。