7月12日、Runtime Wireが「Tencent in talks to become Manus' largest shareholder after Meta's $2B deal was blocked」と題した記事を公開した。この記事では、北京当局がMetaによるAIエージェント企業Manusの約20億ドル買収を阻止した後、Tencentが同社の筆頭株主となる交渉を進めているとされる事態について詳しく報告されている。
MetaのManus買収が白紙に——北京の一声で覆った20億ドル案件
2025年3月にローンチ、2025年12月にMetaが約20億ドルで買収合意、2026年4月に中国当局が巻き戻しを命令。 わずか16カ月で、Manusは急成長したAIエージェント企業から地政学的争奪戦の渦中に引きずり込まれた。
Manusを開発したのはButterfly Effect社で、公開情報では「Red Xiao」として知られるXiao Hong(肖弘)が創業した。Manusは汎用AIエージェントの製品カテゴリに属し、チャットで質問に答えるのではなく、リサーチ、ウェブサイト作成、旅程計画、データ分析といった複数ステップのタスクを自律実行する点が売りだ。クラウド上の仮想コンピュータ環境でタスクを処理する設計であり、ユーザーが「最終仕上げ」を担う従来型チャットボットの限界を突いた製品として注目を集めた。
TechCrunchは2025年4月、BenchmarkがManusのローンチ前に7500万ドルのラウンドをリードし、評価額は約5億ドルと報じた。そこからMetaが数カ月で20億ドルの買収合意に至ったことになり、急騰ぶりが際立つ。
Manusの技術的立ち位置——モデルを作らず、アプリに張った
創業者Xiaoの判断は明快だった。「Day 1からLLMの開発は考えていなかった」——2025年3月のSouth China Morning Post誌上でのXiao自身の言葉だ。DeepSeek以降の中国AI企業の多くがファウンデーションモデル開発に走ったなかで、Butterfly Effectはあえてアプリケーション層に集中した。
技術的には、AnthropicのClaudeやAlibaba製モデルQwenのファインチューニング版を基盤に採用し(共同創業者でチーフサイエンティストのJi Yichaoが明言)、独自開発はオーケストレーション、ワークフロー設計、実行環境に絞った。この判断がスケールを早めた一方で、中国当局にとってはアプリケーション層自体が「戦略的技術」と見なされる結果を招いた。
Manusの公式ブログによる自社発表の数字は以下の通りだ。
- ローンチから8カ月でARR(年間経常収益)1億ドル突破
- 月次成長率 20%超(Manus 1.5リリース後)
- 累計処理トークン数 147兆以上
- 生成した仮想コンピュータ数 8000万台以上
- 従業員数 105人(シンガポール、東京、サンフランシスコ、パリ予定)
これらはあくまで同社発表の数字であり、第三者による検証はない点は留意が必要だ。
Tencentが「論理的な買い手」である理由
Tencentは今回が初めてManusに関わるわけではない。TencentはXiao Hongの前職であるWuhan Nightingale TechnologyにZhenFundとともに出資していたと報じられており、同社はWeChat向けツール「Yiban Assistant」「Weiban Assistant」などを手がけていた。「創業者に早期出資し、外資買収が国家圧力に阻まれたタイミングで再浮上する」というパターンがTencentの動きに読み取れる。
Reutersの7月9日報道(元記事が参照するもの)によれば、現時点で株式比率、価格、評価額、締結済み合意のいずれも開示されていない。Manus側の創業者3人(Xiao Hong、Ji Yichao、Zhang Tao)は2026年5月、自社買い戻しのために約10億ドルの外部資金調達を模索していたとThe Business Timesが報じており、Tencentの参画はその選択肢を一部代替する形になる可能性がある。
Tencentが筆頭株主となった場合、北京にとって「国内資本での管理」が成立する。Manusにとっては創業者が全額を自己調達する必要がなくなる。だがその代わり、同社はMetaの20億ドル買収を阻んだ政府と同じ政治圏にあるコングロマリットの傘下で、グローバル向けAIエージェントを売り続けることになる。
AIエージェント市場の競合圧力
※編集部の考察:以下のセクションは元記事の背景情報を踏まえた編集部による補足である。
所有権争いとは別に、Manusはプロダクト競争でも厳しい局面にある。OpenAI、Anthropic、Google、Perplexityといった大手モデルプロバイダーが、いずれも自社製品にエージェント機能を統合しつつある。Manusのアプリファーストの戦略は立ち上がりを速めたが、基盤モデルを提供するプロバイダーたちがインターフェース層を取り込んでくるリスクを内包している。
Manusが早期に見せたグローバルでの牽引力は、中国発のAIエージェント企業のなかでも希少だった。Tencentはその資産に影響力を持つことを選んでいる。
複数の国をまたいでAI企業を構築する創業者にとって、Manusのケースは一つの事例となった。法人設立地や従業員の所在がどこであれ、「どこで技術が生まれ、誰が最初の資金を出し、どの政府がその資産を戦略的に重要と見なすか」は消えない。アプリケーション層でさえ主権争いになりうるという現実が、今回の経緯で浮き彫りになった。
詳細はTencent in talks to become Manus' largest shareholder after Meta's $2B deal was blockedを参照していただきたい。