7月12日、The Decoderが「OpenAI's GPT-5.6 Sol Ultra reportedly solves a 50-year-old math problem in under an hour」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIのGPT-5.6 Sol Ultraが50年来未解決だったグラフ理論の難問を1時間以内に解いたと報告されていること、そしてその証明がどのようなプロンプト設計によって導かれたかについて詳しく紹介されている。
50年間解けなかった問題を1時間で
問題の核心は、グラフ理論における「CDC(Cycle Double Cover)予想」だ。任意のグラフ(頂点と辺からなるネットワーク)において、各辺をちょうど2回ずつ通るようなサイクルの集合を必ず見つけられるか、という問いである。CDC予想はWikipediaでも解説されており、1970年代にSeymourとSzekeresが独立に提唱して以来、特殊ケースでの部分的な解は存在していたが、一般的な証明は誰も成立させられていなかった。
OpenAIの発表によれば、今回の証明はGPT-5.6 Sol Ultraが導出した。論文はGPT-5.6 Solによって執筆されている。
マンチェスター大学の数学者Thomas Bloomはこの証明を「非常に良い証明だ」と評価した。「短く、初等的で、1980年代には発見されていてもおかしくなかった」とも述べており、新たな数学理論を必要とせず、既知の手法を巧みに組み合わせた内容だという。
なお、Bloomによる評価は現時点で最も詳細な公開評価であり、科学コミュニティによる完全な数学的検証はまだ行われていない。「証明した」という表現はあくまでOpenAI側の報告に基づくものである点は留意が必要だ。
なぜ人間は解けなかったのか
Bloomは「なぜ人間が解けなかったか」という問いに対して、明快な答えを示している。
「自然なラベリングを最初に試して、線形代数的な検証が失敗したときに『まあ、どうせ失敗すると思ってた。こんなに簡単にはできないだろう』と肩をすくめて次に進むことは容易に想像できる。一方でAIは諦めず、小さなバリエーションを試し続ける」
— Thomas Bloom(X上での投稿より)
つまり、証明に必要だったのは「新しい発想」ではなく、直感に反する小さな一歩を諦めずに試し続けることだったというわけだ。人間の数学者であれば、最初のアプローチが失敗した時点で別の方向へ進んでしまう。
AIは出典を示さない
Bloomはこの証明に対して批判的な観点も示している。証明の核となる数学的アイデアは、少なくとも1983年のBermond、Jackson、Jaegerによる論文まで遡れるにもかかわらず、OpenAIの論文にはこの先行研究への言及が一切ないという。
「これらの先行研究がOpenAIの証明に大きな影響を与えていると考えられ、それが全く言及されていないのは残念だ。AIが生成した証明や論文において、文献から手法を借用しながら適切な引用をしないのは頻繁に見られる問題だ」
— Thomas Bloom(X上での投稿より)
また、BloomはAIが本当に独力でこの解法を編み出したかについても懐疑的だ。「AIの問題解決における最初の本能は、一般的に関連論文を検索して読むことだ」と指摘しており、今回の証明も既存知識の再結合に近いと見ている。
これは推論モデル(※編集部補足:与えられた問題に対して多段階の思考ステップを踏んで回答を導くAIモデルの総称。OpenAIのoシリーズやGPT-5系のSolモデルが代表例)をめぐる継続的な議論でもある。AIは「既存の知識を発見して組み合わせる」だけなのか、それとも真に新しいものを生み出しているのか、という問いだ。
64エージェントを使ったプロンプト設計
今回の証明で特に興味深いのが、人間が設計したプロンプトの構造だ。
ここでいうエージェントとは、AIモデルが自律的にタスクを実行・検証・反復する単位のことを指す。複数のエージェントを並列に動かすことで、人間の研究チームが分業して問題に当たるような仕組みを再現している。
まず、モデルに対して「完全な証明が存在すると仮定せよ」と命じることで、「この予想は未解決である」という最も自然な回答を封じている。加えて、インターネットで予想が既に解かれていないかを確認することも禁じられている。
検証も厳格だ。部分的な結果、未証明の別予想への還元、研究の現状まとめ、問題が難しい理由の説明はすべて「不十分」として却下。完全な証明が完成し、対抗的なテストを通過するまで応答できない設計になっている。
プロンプトの構成はさらに緻密で、64エージェントを使用。そのほとんどには、どのアプローチが最も有望かを意図的に知らせないことで、独立した「思考」を促している。別の対抗エージェントが各候補証明を検証し、典型的な誤りのリストと照らし合わせる仕組みだ。
そして、モデルには最低8時間は計算を続けてから諦めることを検討せよと指示されていた。実際には1時間で完了した。
AIが解ける問題の範囲
Bloomは今回の結果を、OpenAIが最近解いた単位距離予想と並べて評価している。どちらも「予想より遥かに簡単だと判明した」大きな未解決問題であり、「数十年前に証明されていた別の歴史も十分ありえた」と述べる。
AIが今後も同様の予想を解き続けるだろうとしながらも、条件を明確にする。「既存の十分に発達した理論と、多くの忍耐と信念だけで解決できる問題に限られる。これは未解決問題全体のおそらくごく一部であり、どれがそれに当たるかは事前にはわからない」。
Bloomはこう締めくくっている。「多くの未解決問題に同時に大量の時間と資金を投入し、成功した場合だけ報告するAI企業が存在するこの奇妙な新世界では、もともと私たちの手の届く範囲にあったものが何だったのか、すぐにわかるようになるだろう」。
詳細はOpenAI's GPT-5.6 Sol Ultra reportedly solves a 50-year-old math problem in under an hourを参照していただきたい。