7月11日、ソフトウェア開発会社のAtomic Objectが「With AI Agents, Attention is the New Bottleneck」と題した記事を公開した。AIエージェントが実行コストを劇的に下げた結果、開発者の「注意力(アテンション)」こそが新たなボトルネックになるという問題を論じている。Atomic Objectはミシガン州に拠点を置くソフトウェアコンサルティング会社で、同社のエンジニアブログ「Spin」は実務から生まれた知見を継続的に発信していることで知られる。
実行は安くなった。判断は高くなった
GitHub CopilotやCursorといったAIエージェントが現場に浸透するにつれ、「手が追いつかない」という制約は急速に薄れてきた。エージェントはコードを書き、テストを生成し、ドキュメントを整える。1日にこなせるタスク数の上限は、以前とは別次元になりつつある。
だが、一つの制約が消えると、次の制約が露わになる。残ったのは、何を作るか決める、アウトプットが正しいか判断する、並列で走るタスクのどれが今まずいかを察知する——つまり、ずっと人間がやってきた部分だ。
記事の著者はこう書いている。「生産性の高い午後を、コードを1行も書かずに完全に消耗して終えることが何度もあった。機械がタイピングをする間、自分はずっと判断と確認に費やしていたからだ」。
これは労働時間の増加として現れない。精神的疲労として現れる。コグニティブロード(認知負荷)——人間の作業記憶にかかる情報処理の負担——が、今や本当の制約になった。
「どうでもいい判断」を自動化する
認知負荷の管理で最も効くのは、判断すること自体をなくすことだ。
記事はオバマ元大統領の言葉を引用している(原典はMichael LewisによるVanity Fair誌の2012年のインタビュー記事とされている)。
「私がグレーかブルーのスーツしか着ないことに気づくでしょう。判断を減らしているんです。食事や服装で決断したくない。もっと重要な決断が待っているから」
※上記は元記事中の引用の意訳。原文は "You'll see I wear only gray or blue suits. I'm trying to pare down decisions. I don't want to make decisions about what I'm eating or wearing. Because I have too many other decisions to make." とされている。
コードも同じ構造だ。低リスクな判断を2回すれば、最初の時点で自動化すべきだったことになる。
具体的な手段は地味だ。ESLintやPrettierなどの lintルールでスタイルの議論を終わらせる。ビルダー関数のデフォルト値で構築方法を固定する。エージェントへの指示(いわゆるシステムプロンプトやルールファイル)に一度書いておけば、次の10タスクがそれを引き継ぐ。自動化できないなら、せめて書き残す。タスクの状態、意思決定のログ。頭の中だけにある情報は、後で再構築するコストを払うことになる。
スプリント計画に「認知負荷」を組み込む
アジャイル開発ではスプリントごとにタスクの時間や複雑さを見積もり、ストーリーポイントを付けるのが一般的だ。だが「このタスクはどれだけの注意力を要求するか、誰の頭を使うか」を問うことはほとんどない。
記事では、スプリントが苦しくなるのは誰かが時間的にオーバーキャパシティになったからではなく、特定の1人のレーンに、それぞれ全力の集中を要求するタスクが積み重なったからだ、という事例が紹介されている。「小さい」タスクが3つあっても、それぞれがシステム全体を頭に入れておかないと手を付けられないなら、全然小さくない。ここでいう「小さい」とはストーリーポイントが少ないという意味であり、認知的なコストが小さいという意味ではない。
対策として記事が挙げているのは、計画段階で「この作業は誰の頭の中に住んでいるか、その頭はもう満杯ではないか」を問うことだ。一人に集中しているなら、ペアワークや文書化でその知識を分散させる。
「簡単な作業」が休憩を兼ねていた時代は終わった
単純なチケットの消化やボイラープレート(定型的なコードの雛形)の実装は、認知的には「散歩」に相当した。難しい問題の間に挟まれた、オートパイロットで動ける時間だった。
エージェントがその仕事を引き取った。結果として残るのは、判断の連続から自動運転の区間が抜け落ちた、より密度の高いストリームだ。
記事では「休憩は以前は無料だった」と表現されている。今は意図的に確保しなければならない。席を立ち、画面から離れる。静かなキーボードはサボりに見えるかもしれないが、疲れたレビュアーが見逃すバグを、10分の休憩後なら捕捉できる。
これはいわゆる意思決定疲れ(Decision fatigue)の問題でもある。判断の質は、1日を通じて消耗していく。エージェント活用が進むほど、一日あたりの「判断密度」が上がり、この現象が顕在化しやすくなる。
アテンションを先に配分する
記事の結論は明快だ。エージェントから最も成果を引き出すのは、最も多くのエージェントを同時に走らせた人ではなく、午後3時にもまだ余力を持っている人だ。その余力があるから、マイグレーションが微妙におかしいことに気づける。
判断を「飛行中に4つのエージェントを操縦しながら」行うのではなく、余裕があるうちに次に何をするかを決めておくこと。一日が勝手にアテンションの使い道を決める前に、自分で決める。
AIエージェント時代の生産性論は、ツールの使い方よりも人間側のリソース管理へと重心を移しつつある。本記事はその議論に一つの実践的な視点を加えるものだ。
詳細はWith AI Agents, Attention is the New Bottleneckを参照していただきたい。