7月11日、The Next Webが「Ed Markey's AI accountability bills take on Big Tech」と題した記事を公開した。近隣にデータセンターが建設されて以来、水道水を飲めなくなったジョージア州の農村住民。チャットボットとの感情的依存関係の末に命を絶った14歳の少年。米上院議員エド・マーキーが発表したAI規制の法案パッケージは、こうした具体的な被害事例を直接の動機としている。
データセンター建設に「公益証明」を義務づける
法案群の中核となるのが、連邦通信委員会(FCC)によるデータセンター認証制度だ。記事公開時点(7月11日)で「今後数週間以内に提出予定」とされているこの法案は、データセンターを所有・計画する企業に対し、建設開始前にFCCから認証を取得することを義務づける。認証の条件は、当該施設が「公益を損なわないこと」の証明だ。
FCCは審査にあたり、大気・水質への影響、騒音、エネルギーコスト、電力網の安定性、地域の野生生物、地域経済への影響を総合的に判断する。環境保護局(EPA)や地域の用途地域委員会とも連携する。マーキー議員は「データセンターが汚染源になることを防がなければならない」と訴える。
この問題の背景には、実際の被害事例がある。ジョージア州の農村部では、近隣にデータセンターが建設されて以来、住民が水道水を飲めなくなった。また、メタのデータセンター建設業者がワイオミング州シャイアンの水を汚染した事例も報告されており、同時期に別の議員がビッグテックにAIの電力コストを負担させる法案も提出している。
法案が想定する「被害者」たち
マーキー議員の法案パッケージは、抽象的な規制論ではなく、具体的な被害事例に対応する形で構成されているのが特徴だ。各条項の背後には実名・実例が存在しており、その点で従来の包括的AI規制論とは趣を異にする。
- チャットボットによる子どもへの害:14歳の少年がチャットボットとの感情的依存関係の末に自殺したとされる事案を受け、未成年者がAIに感情的に依存することを禁じる規制を求める。
- アルゴリズムによる差別:住宅ローン審査のアルゴリズムに差別があったとして訴訟を起こした女性のケースを受け、高リスク分野のアルゴリズムに対する独立した偏り監査(バイアス監査)を出荷前に義務づける。
- 職場のAI監視:採用・解雇・昇進を自動化システムに主に委ねることを雇用主に禁じる。
- 医療分野のAI判断:病院がAIの判断を覆す「人間による上書き権」を維持することを義務づける。
いずれの条項も「被害が起きてから対処する」のではなく、「被害が起きる前に止める」事前規制の発想に基づいている点が共通している。
州ごとのバラバラな規制に対する連邦レベルの回答
現在、AIに関する安全規制は州ごとに異なり、どの州に住むかで受けられる保護が変わる状況だ。マーキー議員はこれを「あまりにも多くの人が無防備なまま取り残される」として批判し、連邦レベルでの統一的な基準を求める。
比較対象として挙げられているのがEUだ。EUはすでにAI法(EU AI Act)、GDPR、オンライン安全規則を通じて事前規制型の体制を整えている。一方、米国は2022年のChatGPT登場以降、連邦レベルではほとんど何も動いていない。皮肉なことに、シリコンバレーの企業自身が規制の枠組みを求め始めているという動きもある。
成立への道は険しい
政治的な現実は厳しい。マーキー議員の法案の大半は審議が止まったままであり、議会全体として「ガードレールより速度」を優先する傾向が続いている。
ただし、わずかな足がかりはある。今年3月、上院は子どものオンライン安全に関する法案を可決し、未成年者へのターゲット広告禁止やデータ収集制限が盛り込まれた。マーキー議員本人は「最終的には全国的な解決策が法律として成立する」と楽観的な見方を示している。
議員は法案の動機を自身の父親の経験に結びつける。父は現代の安全規制が存在しなかった時代に工場の機械で指を失った。技術は常に規制より先を走る——AIはその最新版に過ぎない、というのがマーキー議員の主張だ。
詳細はEd Markey's AI accountability bills take on Big Techを参照していただきたい。