7月10日、Digidayが「Platforms' AI dilemma: scale without sameness」と題した記事を公開した。Meta・Google・TikTok・LinkedIn・Snapなどの幹部が、AIによる広告クリエイティブの「均質化」リスクについて語った内容をまとめたものだ。その技術的核心にあるのは、LLMが本質的に「平均に収束する」という構造問題である。
核心:LLMは「平均に回帰する」
最も技術的に踏み込んだ指摘をしたのはLinkedInだった。VP・Davang Shahは、クリエイティブが似通ってくるのには構造的な理由があると説明した。
「業界のツールの多くは、同じ基盤のLLMモデルで作られている。すべてのLLMは最終的に同じデータプールを参照して推薦を出す。どこかの時点で、結果は平均に収束しうる。」
同じデータ、同じモデル、同じプロンプトを入れれば、同じ出力が返る——AIツールを使うエンジニアにとっては自明の話だが、広告業界ではこれが深刻な問題として認識され始めている。LLM(大規模言語モデル)は膨大なテキストから「最もありそうな出力」を生成するよう訓練されており、その設計上、同一の入力から独自性の高い表現を引き出すのは難しい。
TikTokのクリエイティブプロダクト戦略・オペレーション責任者、Moritz Bartschはプロンプト(AIへの指示文)の質に問題を見る。
「みんなが一行のプロンプトを入れれば、みんな同じ汎用的な出力しか得られない。ツールはどんどん使いやすくなっているが、戦略的な判断は常に人間がする。」
同じツールを使えば、同じ広告になる
カンヌライオンズ(Cannes Lions)※の場で、Snap・Meta・Reddit・LinkedIn・TikTok・Google・OpenAIの幹部たちが口を揃えたのは「AIはクリエイティブを速くする」という点だ。だが、その裏で静かに共有されていたのは、そのスピードこそが問題の種かもしれないという懸念だった。
※カンヌライオンズ:フランス・カンヌで毎年開催される世界最大規模の広告・クリエイティブのアワード&カンファレンス。広告業界の「アカデミー賞」とも呼ばれ、各プラットフォームや代理店の幹部が一堂に会する場として知られる。
広告主が同じAIツールを使って大量のコンテンツを生成すれば、フィードに並ぶ広告はどれも似たり寄ったりになる。プラットフォームにとって、ユーザーの信頼とエンゲージメントを支えているのは「リアルさ」や「コミュニティの声」といった要素だ。それが均質なAI生成コンテンツに侵食されれば、広告在庫そのものの価値が下がりかねない。
SnapのVP・Abby Laursenはこう述べた。
「私たちのリサーチで繰り返し見えてきたのは、AIの影響のひとつが『どれも似たようなコンテンツが延々と流れるフィード』を生み出すことだ。何を信じればいいか、人々にはわからなくなる。」
SnapはもともとSNSのニュースフィードより1対1のメッセージング文化を軸に作られたプラットフォームだ。Laursenはその特性を活かし、「リアルなつながりを中心に置く」立場からAIを活用するとした。AIはパフォーマンス向上と操作の簡略化に使うべきであり、コンテンツ量の爆発的拡大のためではないという立場だ。
各プラットフォームの立場
各社の姿勢はそれぞれ微妙に異なる。
- Reddit:コミュニティごとに「会話に合ったクリエイティブ」が必要と強調。EVPのRoeloff van Zwolは「Redditの真正性(authenticity)※と誠実さを守ることは広告にも当てはまる」と述べ、クリエイティブの表示に関するガイドラインを設けている。
- Meta:クリエイターの反復作業(grunt work)を自動化し、クリエイター自身とオーディエンスとの関係性を守ることを優先。VPのYair Livneは「クリエイターとその創作物、そしてオーディエンスとの真正性が中心にある」と説明した。
- Google:アメリカズ&グローバルパートナーズ担当プレジデントのSean Downeyは「キャンペーンで最も重要なのはアイデアだ。AIはスケールを考える助けになる」と述べ、AIはオリジナルのアイデアを置き換えるものではなく、実行のスピードを上げるものだという立場を明確にした。
※真正性(authenticity):広告・マーケティングの文脈では「作り物感のないリアルさ」「ブランドやクリエイターの本来の声が伝わること」を指す。AI生成コンテンツが増えるほど、この要素が差別化の鍵になるという文脈で各社が用いている。
OpenAIは「企業規模によってニーズが違う」
OpenAIはやや異なる角度から問題を見ている。グローバル広告ソリューション責任者のDavid Duganは、中小企業(SMB)と大企業ではAIへの期待がまったく異なると指摘した。
「SMBにとっては、できるだけ簡単に広告クリエイティブを作れるツールが欲しいはずだ。一方、ブランドに数十年以上投資してきた大企業は、クリエイティブメッセージのコントロールに極めて敏感だ。一律の解はない。市場に選択肢とコントロールを提供しなければならない。」
DuganはMetaで10年以上勤務した後、OpenAIに移って広告事業を立ち上げた人物だ。その経歴から、大手プラットフォームとAI企業それぞれの論理を肌で知る立場にある。均質化リスクは「使うAIツールが何か」よりも「誰がどう使うか」によって大きく左右される、というのがDuganの見立てだ。
結局、共通する結論
各社の立場は異なれど、行き着く結論は一致していた。自動化はスケールのためであり、人間的な要素を置き換えるためではない。プラットフォームの価値を担保しているのはリアルなコンテンツとコミュニティへの信頼であり、AIはその補助に徹するべきだ——というのが、カンヌを席巻した「建前」であり、おそらく各社が本気で向き合っている課題でもある。
生成AIによるコンテンツ均質化の問題は広告業界に限らず、メディアやEC、ゲームなど幅広い領域で議論が始まっている。LLMの「平均回帰」という構造的特性を踏まえたうえで、差別化をどう設計するかは、AIを活用するすべての開発者・プロダクトチームにとっても無縁ではない問いだ。
詳細はPlatforms' AI dilemma: scale without samenessを参照していただきたい。