7月10日、CNBCが「Kraken to launch agentic trading as crypto exchanges evolve beyond crypto」と題した記事を公開した。大手暗号資産取引所Krakenが、AIエージェントによる自律的なトレーディング機能をアプリのコア機能として導入する計画を明らかにした。投資目標を設定すれば、市場監視から取引執行までをAIが担う——プロトレーダーだけが享受してきた「常時稼働の投資判断」を、一般ユーザーに届けようという試みだ。
AIエージェントが市場を監視し、ユーザーが承認する——エージェント型取引とは何か
エージェント型取引(Agentic Trading)とは、AIエージェントがユーザーの設定した目標やリスク許容度をもとに、市場監視・投資機会の特定・取引執行を自律的に行う仕組みだ。重要なのは「自律的」の意味で、AIが全プロセスを単独で完結させるわけではなく、ユーザーが内容を確認・調整・承認するフローが設計に組み込まれている。
従来のアルゴリズム取引との最大の違いは、固定ルールではなく「目標ベース」で動作する点にある。新しい情報から学習し、複数の変数を同時評価しながら、ユーザーが自然言語で指示した目標を追いかける。「BTCを毎月一定額積み立てたい」「ボラティリティを抑えながら利回りを最大化したい」といった指示に対して、AIが状況に応じた判断を繰り返す形だ。
Krakenのチーフデータオフィサー、Kamo Asatryan氏はCNBCに対して次のように述べた。
「AIは、普通のユーザーがプロトレーダーと同じように市場の変化に対応できるようにする。下落相場でもプロは活発に取引を続けるが、一般ユーザーにも同じ能力と情報が届くことが重要だ。」
この発想の背景にあるのは、モバイル取引の普及が「アクセス」は生んだが「自信ある投資家」は生まなかったという反省だ。スマートフォンから簡単に取引できる環境は整ったが、相場の動きに追いつけず損を出して離脱するユーザーは依然として多い。KrakenはAIによってその差を埋めようとしている。
アプリの具体的な設計
新しいKrakenアプリのオンボーディングでは、AIがユーザーの投資目標・リスク許容度・資金調達の好み・財務プロファイルを一連のフローで把握する。そのデータをもとにAIがドラフトポートフォリオを生成し、ユーザーは内容を確認・調整・承認する。AIが自動で売買を完結させるのではなく、最終的な意思決定はユーザーに委ねられる設計だ。
運用開始後も、AIがポートフォリオに関連するニュースやインサイトを継続的に提供し、「アイドル状態の現金を最適化する機会」のような能動的な提案も行う。
Asatryan氏は理想像を次のように語った。
「Krakenと話すのは、金融に詳しく、かつあなた自身のことも深く知っている親友に相談するような体験にしたい。ユーザー自身がプロトレーダーになる必要はない。」
さらに、AIが会話だけでなくアプリのUIそのものをユーザーごとにパーソナライズしていく方向性も示した。習熟度や利用パターンに応じてインターフェースが変化していくことで、初心者から上級者まで同一のアプリを使い続けられる体験を目指すという。
競合他社も同じ方向へ動いている
KrakenがAI強化を打ち出す背景には、業界全体の動きがある。CoinbaseとGeminiもすでにAI支援トレーディングや開発者向けツールを相次いで投入している。CoinbaseはAIエージェントが取引・決済を管理できるツールを6月に公開済みだ。Geminiもポートフォリオ管理へのAI統合を進めており、大手取引所がそろってAIをプロダクトの中核に据える方向にシフトしている。
こうした動きが、暗号資産価格の低迷するベア相場のタイミングで起きている点は興味深い。元記事でAsatryan氏は、ベア相場を業界が製品開発に集中できる時期と位置づけており、価格上昇局面でユーザー獲得を急ぐよりも、長期的に使われるプロダクトを作るべき時だという認識を示している。
Asatryan氏はAIの活用を「ベア相場の一時的なトレンド」ではなく「真の成長機会」と位置づける。従来の取引所はFOMO(機会損失への恐怖)でピーク時に参入し、下落時に離脱する一般ユーザーに依存してきた。AIによって、相場の方向を問わず継続的にエンゲージするユーザー層を育てることが狙いだ。
「取引所を超える」という長期構想
2011年創業のKrakenは、機関投資家・トレーディングファーム・プロトレーダーを主要ユーザー層としてきた。今回の動きは、そこに新たなリテール層を取り込むための戦略でもある。
Asatryan氏は「取引所を超えて進化する」という表現を使い、決済・銀行・融資を含むフルスタックの金融サービスプラットフォームへの移行を見据えていると述べた。
その文脈で言及されているのが、ステーブルコインやトークン化資産の普及だ。USDCのような法定通貨連動のステーブルコインや、不動産・国債などの現実資産をブロックチェーン上で表現したトークン化資産は、暗号資産を「投機対象」から「実用的な金融インフラ」へと転換させつつある。Krakenはこれらの新しい資産クラスへのアクセスをAIによって簡素化し、取引所の枠を超えた金融体験を提供する構想を描いている。AIはそれらを「誰にでもアクセス可能にする」とした。
詳細はKraken to launch agentic trading as crypto exchanges evolve beyond cryptoを参照していただきたい。