7月11日、Crunchbaseが「The Week's 10 Biggest Funding Rounds: A Pair Of Billion-Dollar Deals For Cyber And AI Infrastructure Lead」と題した記事を公開した。2026年7月4日〜10日の週に発表された米国スタートアップの大型資金調達ランキングTop10をまとめたもので、サイバーセキュリティとAIインフラがそれぞれ10億ドルを調達して同率1位に並んだほか、量子コンピューティングのSeries Aで3億ドルという異例の大型ラウンド、そして同一週に暗号資産関連2件へ単独出資した日本のSBIグループの動きが際立つ一週間となった。
今週の構図:10億ドル×2本、量子の異例ラウンド、SBIの連続出資
今週のランキングで最も目を引くのは、量子コンピューティング企業OratomicがSeries Aで3億ドルを調達した点だ。通常、Series Aは数千万ドル規模が標準であり、3億ドルという金額はこのステージとしては極めて異例である。また、SBIグループが単独投資家として同一週に2件の暗号資産インフラ案件へ出資した点も、機関投資家のクリプト参入姿勢を示す動きとして注目に値する。
Top10のうち5件がAI関連という構成で、量子コンピューティング・地熱エネルギー・暗号資産インフラ・航空宇宙・バイオテクにも大型の資金が流れている。
同率1位:KeyfactorとSambaNova、それぞれ10億ドル
Keyfactor(サイバーセキュリティ)— 10億ドル
Keyfactorは、Summit Partnersが主導するプライベートエクイティ(PE)ラウンドで10億ドルを調達した。Insight PartnersとSixth Street Growthも参加。同社は企業向けのデジタルID・マシンIDマネジメントソフトウェアを提供しており、証明書・暗号鍵・接続デバイスのセキュア管理を担う。累計調達額は12億1000万ドルに達した。
マシンIDとは、IoTデバイスやサーバー・アプリケーションなどの「機器」を識別・認証する仕組みで、証明書管理の自動化ニーズが高まる昨今、特にゼロトラスト移行を進める大企業での導入が加速している領域だ。
SambaNova(AIインフラ)— 10億ドル
カリフォルニア州パロアルト拠点のSambaNovaは、General Atlanticが主導するSeries Fで10億ドルを調達し、ポストマネーバリュエーションは110億ドルに達した。BlackRock、Intel Capital、カタール投資庁、T. Rowe Price、Vista Equity Partnersなど多数の機関投資家が参加する大規模ラウンドとなった。同社はAIチップと、学習・推論ワークロード向けのエンタープライズAIインフラを開発している。累計調達額は約25億ドル。
AIチップ市場ではNVIDIAが圧倒的な地位を占めているが、SambaNovaは独自アーキテクチャでエンタープライズ向け推論ワークロードに特化して差別化を図っている。110億ドルという評価額は、AI推論需要の拡大を背景とした投資家の期待の高さを映している。ただし、本文で詳細な対比を展開するには元記事の記述が限られており、タイトルほどの「対決構図」は本記事の範囲では描き切れない点は付記しておく。
3位:量子コンピューティングのOratomic、Series Aで異例の3億ドル
カリフォルニア州サウスパサデナのOratomicが、Arch Venture Partners・Khosla Ventures・Spark Capitalの共同リードで3億ドルのSeries Aを調達した。Bezos Expeditions、General Catalyst、Index Venturesのほか、量子コンピューティングの理論研究で知られるコンピュータ科学者Scott Aaronsonも参加している点が目を引く。同社は中性原子(ニュートラルアトム)量子ハードウェアとフォールトトレラント(耐障害性)アーキテクチャを開発しており、量子コンピューティングの商業化加速を目指す。
Series Aとして3億ドルは極めて異例の規模だ。中性原子方式は、超電導方式(IBMやGoogleが採用)とは異なるアプローチで、スケーラビリティや動作環境の柔軟性の面で注目を集めているアーキテクチャであり、その将来性に対して初期段階から大規模な資本が投じられた格好となった。
4位以下:AIコンプライアンス、分散AI、地熱エネルギーなど
Prime Intellect(AI)— 1億3000万ドル(Series A)
分散コンピューティングネットワーク上でAIモデルの学習・デプロイを行うオープンプラットフォームを構築するPrime Intellectが、Radical Ventures主導で1億3000万ドルを調達。OpenAI共同創業者のJohn Schulman、PerplexityのCEO Aravind Srinivas、CloudflareのCEO Matthew Princeらが個人投資家として参加した。Dell Technologies Capital、Intel Capital、NVIDIA傘下のNVenturesも出資している。累計調達額は2億400万ドル。分散型アプローチにより、特定のクラウドプロバイダーへの依存を排したAI基盤の構築を目指している。
Norm AI(AI)— 1億2000万ドル(Series C)
法規制をソフトウェアに変換し、コンプライアンス業務を自動化するAIプラットフォームのNorm AIが、Khosla Ventures主導で1億2000万ドルのSeries Cを調達。報道ベースのバリュエーションは12億ドル。Bain Capital Ventures、Coatue、New York Life Insurance、Vanguardなどが参加した。金融・保険など規制負荷の高い業界での需要を背景に、AIコンプライアンス領域への資金流入が続いている。
Quaise Energy(地熱)— 1億3400万ドル(Series B)
テキサス州ヒューストンのQuaise Energyは、ミリ波掘削技術を用いて地球深部の地熱エネルギーを採掘する技術を開発。Prelude Ventures主導で1億3400万ドルを調達した。累計調達額は2億2500万ドル。従来の掘削技術では到達が困難だった深部地層へのアクセスを実現することで、地熱を安定的なベースロード電源として活用することを目指している。
SBIグループが同一週に暗号資産インフラ2件へ単独出資
Gauntlet(暗号資産)— 1億2500万ドルとEDX Markets(フィンテック)— 7600万ドルのいずれにも、日本のSBIグループが単独投資家として出資した。GauntletはDeFiプロトコル向けのリスク管理・最適化ソフトウェアを、EDX Marketsは機関投資家向けデジタル資産取引所を運営する。
同一週に2件の暗号資産インフラ案件へ単独出資するという動きは、資金調達ラウンドのニュースとしても異例の一致であり、機関投資家によるクリプトインフラへの戦略的関与が深まっていることを示す動きとして注目される。
その他のTop10
| # | 企業 | 金額 | 分野 | 概要 |
|---|---|---|---|---|
| 8 | Venus Aerospace | 9100万ドル(Series B) | 超音速推進・航空宇宙 | 超音速旅客機向け推進システムを開発。民間超音速飛行の実用化を目指すスタートアップへの継続的な資金流入が続いている |
| 10 | Fore Biotherapeutics | 6740万ドル(Series D) | 精密腫瘍学 | がん細胞を標的とする精密医療プラットフォームを開発。Series Dまで継続的に資金調達を重ねており、臨床開発の進展が評価されている |
海外案件:欧州でも大型ラウンドが相次ぐ
米国外では、ミュンヘンのProxima Fusionが4億1100万ユーロのSeries Bを調達した。GoogleやRWEが出資し、欧州初の商業核融合発電所の実現を目指す。なお、ユーロ・ドル換算値は記事執筆時点のレートに依存するため、参考値として捉えていただきたい。パリのSkelloも、HR管理ソフトウェアで2億ユーロのPEラウンドを完了した。
詳細はThe Week's 10 Biggest Funding Rounds: A Pair Of Billion-Dollar Deals For Cyber And AI Infrastructure Leadを参照していただきたい。