7月10日、Towards Data Scienceが「The Big Con of Agentic AI」と題した記事を公開した。AIエージェントへの過度な依存が、かつての経営コンサルタント依存と同じ構造的な罠に陥るリスクについて詳しく論じている。
「コンサル依存」と「AI依存」は同じ罠だ
経済学者のマリアナ・マッツカートとロージー・コリントンは2023年に著書『The Big Con』を発表した。そこで指摘されたのは、経営コンサルティング産業の構造的な問題だ。コンサルタントに戦略機能を外部委託し続けた組織は、やがてその助言の質を評価する内部能力を失う。すると外部依存がさらに深まり、抜け出せなくなる。
本記事はこの構造を、現在のアジェンティックAI(自律的に行動・判断するAIエージェント)に重ねる。コンサル依存と同じ罠が、よりスピーディーかつ大規模に展開されようとしているという論旨だ。
共通する構造はこうだ:
- 最初は明らかなメリットがある(コンサルは迅速な知見提供、AIは文書生成・コード作成の効率化)
- 合理的な判断として少しずつ委託が拡大する
- 内部に知識・判断能力が残らなくなった時点で、依存が固定化する
コンサル版の教訓を一言で言えば「漕がなくなると、学ばなくなり、舵も取れなくなる」だ。AI版でも同じことが起きると記事は警告する。
個人・組織・社会の三層で起きる「認知の空洞化」
個人レベル
AIが代わりに考えてくれるとき、人間は何を失うか。記事はジョージ・オーウェルの1946年のエッセイ『Confessions of a Book Reviewer』を引用しながら指摘する。「認知的な作業の価値は成果物だけでなく、それを生み出す過程で人が得るものにある」と。
元記事では、ある学生がAIに小説の文法チェックを依頼した事例が紹介されている。AIは行レベルの編集を提案し、彼女はそれを受け入れた。次に構成の変更、最終的には全面的な書き直しへ。元記事はこれを「依存症者の転落に似た連鎖」と表現している。各ステップは小さく見えても、次のステップをより踏みやすくする。
組織レベル
AIへの委託が深まるほど、そのAI出力を評価できる人間が組織内から消えていく。これはコンサル依存の「評価能力の喪失」と同じメカニズムだ。
記事が特に問題視するのは、AIベンダーの価格戦略だ。現在AIサービスは実際のコストを大幅に下回る価格で提供されている。かつてクラウドやSaaSが補助金的な低価格で市場を取り込み、後に乗り換えを困難にしたのと同じ構図だという。統合が深まれば深まるほど、撤退コストが上昇する。
さらに利益相反の問題がある。かつての労働力外部委託ブームを主導したコンサル会社が、今度はAI導入戦略のアドバイザーとして高額フィーを得ている。**マッキンゼーは生成AIの経済効果を年間2.6〜4.4兆ドルと試算しているが**、この試算は大規模な助言契約の根拠を都合よく補強する数字でもある。クライアントが内部能力を高めれば次の契約が不要になるため、外部アドバイザーには自立支援を避けるインセンティブが構造的に存在する。個々のコンサルタントが悪意を持っていなくても、この力学は働く。
社会レベル
裁判所がブラックボックスのアルゴリズムによるリスクスコアを量刑に使い、政府機関がAIの推奨をそのまま承認するだけになる——こうした事態では説明責任の所在が消える。AIシステムは確率的なパターンマッチングであり、固有の価値観も自らの出力に対する責任も持たない。記事はこの問題を個人・組織レベルの依存と地続きのものとして捉えており、社会全体での「評価能力の喪失」が民主的な意思決定そのものを空洞化させると警告する。AIの出力を批判的に検証できる専門家集団が社会に残っているかどうかが、長期的には制度の健全性を左右するという論点だ。
「セントール」か「逆セントール」か
記事は「セントール」と「逆セントール」という対比概念を援用する。AIをツールとして主体的に使いこなす人間を「セントール」、逆にAIのために奉仕させられる人間を「逆セントール」と呼ぶ。
AIの有用性は記事も認める。反復的・ルールベースの大量処理タスクの自動化、AIを「反論役」として使った思考の鍛錬、パーソナライズされた学習支援ツールなど——使い方次第でAIは人間の能力を高める。初期研究では、AIチュータリングツールが学習への関与と理解度の向上に効果を示すデータもある。
問題は、委託が「人間がAI出力を批判的に評価できなくなる水準」を超えたときだ。その時点で人間は補強されるのではなく、代替される。
「比較優位の罠」という本質
記事が最終的に指摘するのは、比較優位の論理の暴走だ。個人が配管工や電気工に仕事を頼み、企業が税務・法務を外注し、政府が専門業者に委託する——それ自体は合理的だ。
しかし「自分たちが何者であるかを規定する、本質的・戦略的な仕事」まで外部委託したとき、問題が始まる。思考を外注する学生、戦略を外注する企業、政策立案を外注する政府——いずれも、自らのアイデンティティを構成する能力そのものを手放している。アジェンティックAIはこの委譲を、説明責任を持たないシステムへとさらに一歩進める。
詳細はThe Big Con of Agentic AIを参照していただきたい。