7月11日、PYMNTSが「New York Launches AI-Assisted Regulatory Overhaul to Cut Red Tape」と題した記事を公開した。ニューヨーク州がAIを活用して州史上最大規模の規制見直しに着手したこと、およびその具体的な内容が詳しく紹介されている。
「深夜に女性が働くには特別許可が必要」——時代遅れの規制も一掃
特に興味深いのが、完全に時代遅れとなった規制の廃止だ。廃止対象として特定された15件の労働規制の中には、「レストランが女性を深夜以降に働かせるために特別な許可を取得しなければならない」という数十年前に制定された要件が含まれている。また、トラック・バス運転手の勤務表に関する旧来の仕様、1970年代から残る衛生関連ルール、さらには情報技術サービス局が今も管理している「Y2K問題」関連の通達の廃止なども対象となっている。
こうした規制の山を掘り起こす主役として、今回の取り組みが注目を集めている。
ニューヨーク州がAIで規制の棚卸しを実施
ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は、州政府全体の規制負担を軽減するための大規模な取り組みを開始した。行政命令に署名し、各州機関に対して「規制リセット(Regulatory Reset)」と呼ぶ包括的な見直しを指示した。
この取り組みで目を引くのが、**スタンフォード大学のRegLabが開発したAIシステムの活用**だ。RegLabは法・政策・データサイエンスを横断する応用研究組織で、行政課題へのAI実装に複数の実績を持つ。今回は非営利団体や学術研究者と連携し、このAIで既存の規制を分析。数千件にのぼる「効率化の余地がある規制」を特定したという。AI分析の結果は、州職員や外部専門家によるレビューと組み合わせて活用されている。
取り組みを支援した組織のひとつであるRecoding America Fundのエグゼクティブ・バイスプレジデント、ロバート・ゴードン氏はこう述べている。なお、Recoding America Fundはジェニファー・パルカ氏の著書『Recoding America』を起点に設立された組織で、政府のデジタル変革と官僚主義の打破を支援している。
「政府はあまりにも頻繁に、古いルールの上に新しいルールを積み重ねるだけで、以前の規制がまだ必要かどうかを検証しない。ニューヨーク州はシンプルで必要な問いを立てた。『何を取り除けるか?』と。」
何が変わるのか:初期パッケージの中身
ホークル知事はまず、50件の規制措置からなる初期パッケージを発表した。「時間の節約」「コスト削減」「行政サービスへのアクセス拡大」「時代遅れの規制の撤廃」の4カテゴリに整理されており、行政側の試算では数千万ドル規模の手数料・コンプライアンスコスト削減につながるとしている。初回の改革で恩恵を受ける住民数は150万人超と見込まれている。
具体的な改革の例は以下のとおりだ。
- 80万人超の有資格者(医療・法律・建設など)の職業免許更新手続きの簡素化
- 手頃な住宅(アフォーダブルハウジング)の審査フローの効率化
- メディケイド(低所得者向け医療保険)提供者の書類作成負担の軽減
- 移動式住宅輸送に課されていた2万5,000ドルの保証金要件の撤廃
- 介護施設建設における自己資本要件の引き下げ
住民からの提案も4,000件
今回の改革は、AIと専門家の分析だけで進めているわけではない。EXPRESS NYポータルを通じて住民から改善提案を募集した結果、62の全郡から約4,000件の提案が寄せられた。これらは現在審査中で、年内にさらなる規制変更に反映される見通しだ。
ホークル知事はこの取り組みを、「政府の規模を縮小する」のではなく「政府をより効果的にする」ための改革と位置づけており、昨今の連邦政府レベルでの行政機能削減の動きとは意図的に一線を画している。AIを規制の精査ツールとして実務投入した行政の先行事例として、他州や他国の政策立案にも影響を与える可能性がある。
※編集部の考察:日本でもデジタル臨時行政調査会がアナログ規制の見直しを推進しているが、AI活用による大規模な自動スキャンという手法はまだ本格導入には至っていない。今回のニューヨーク州の事例は、行政DXにおけるAI活用の具体的なモデルとして参照価値が高い。
詳細はNew York Launches AI-Assisted Regulatory Overhaul to Cut Red Tapeを参照していただきたい。