7月11日、RuntimeWireが「OpenAI says GPT-5.6 Sol Ultra produced a proof of a 50-year graph theory problem」と題した記事を公開した。OpenAIのGPT-5.6 Sol Ultraが64のサブエージェントを並列動作させ、約50年来未解決のグラフ理論問題「サイクル二重被覆予想」の候補証明を生成したと主張している。ただしこの証明は、査読付き論文への掲載も、arXivへの投稿も、公開レフリープロセスも一切経ていない点は重要な留保であり、「AIが難問を解いた」という主張はその文脈で受け取る必要がある。
GPT-5.6 Sol Ultraが「サイクル二重被覆予想」の証明を生成したと主張
X上の2投稿スレッドでこれを明らかにしたのは、Ethan Knight氏(@eknight)だ。元記事には所属・肩書きの明記がなく、OpenAI関係者とみられるが詳細は不明である。Knight氏によれば、GPT-5.6 Sol Ultraが「サイクル二重被覆予想(Cycle Double Cover Conjecture)」の証明を生成したという。この予想は、Szekeresが1973年に、Seymourが1979年に独立して提唱したグラフ理論の未解決問題であり、Wolfram MathWorldのページも2025年7月10日時点で「未解決」と記載している。
予想の内容を簡単に説明すると、「橋を持たない(bridgeless)すべてのグラフに対して、各辺がちょうど2回現れるような閉路の集合が存在するか」という問いである。"橋(bridge)"とは、その辺を取り除くとグラフが非連結になるような辺のことだ。
今回の証明生成は、GPT-5.6が一般提供された7月9日の翌日に報告された。64のサブエージェントを使って約1時間で証明が生成されたとされる。OpenAIは3ページの証明PDFと使用したプロンプトの両方を自社CDN上で公開している。
証明の中身と使われた手法
OpenAIが公開したPDFは、「すべての有限の橋なし無向グラフはサイクル二重被覆を持つ」という定理を主張する。証明の概要は以下のとおりだ。
- 問題をループなし3正則グラフ(loopless cubic graph)に帰着する
- 群 F₂³(3次元の2元体)上の「nowhere-zero flow」を構成する
- そのフローを2要素集合によるラベルに変換し、各頂点で各群要素がゼロ回か2回だけ現れることを示す
- 辺をまたぐ互換条件を線形代数の議論で確立する
ここで登場する「nowhere-zero flow」とは、グラフの各辺に向きと整数値(あるいは群の元)を割り当てたとき、いずれの辺にもゼロが現れないフローのことだ。Tutteが1950年代に導入した概念で、サイクル二重被覆予想とは深く関連することが知られており、今回の証明もこの構造を中心に組み立てられている。
さらに注目すべきは証明文書に記された帰属表示だ。証明自体はGPT-5.6 Sol Ultraに、文書化はCodex with GPT-5.6 Solに帰属すると明記されている。フロンティアモデルの成果物でここまで明示的な帰属表示は珍しい。
使用されたプロンプトも公開されており、その内容は詳細だ。モデルに対し「予想を完全に解決すること、部分的な進展は全体の解決を含意しない限り不可」と指示し、最大64の並列エージェントの使用を許可している。また「アドバーサリアルエージェント(adversarial agent)」——証明の欠陥を能動的に探す役割を担うエージェント——を用いて、以下の典型的な失敗パターンを検証するよう指示した。
- ちょうど2回という多重度の検証
- 平行辺による2サイクルの扱い
- 非連結グラフへの対応
- 帰着操作で橋が導入されないこと
- 予想の同値な別バージョンへの循環的依存
「証明した」ではなく「候補証明を生成した」
記事が繰り返し強調しているのは、この証明は査読付き論文への掲載も、arXivへの投稿も、公開レフリープロセスも経ていないという点だ。数学においてこの区別は、ソフトウェアのデモとは比較にならないほど重要な意味を持つ。
長年未解決だった予想に対して、一見もっともらしい証明が後に誤りと判明した事例は数多い。サイクル二重被覆予想についても、過去に証明を主張する原稿が存在しながら、参考文献や文献では依然「未解決」と記載され続けてきた歴史がある。
GPT-5.6のプロダクト戦略との連動
OpenAIのタイミングは意図的だ。GPT-5.6はSol、Terra、Lunaの3グレードで構成され、「ultra」が最上位の設定として位置づけられている。デフォルトのultraは4エージェントを協調動作させるが、開発者はResponses APIを通じて独自のマルチエージェントワークフローを構築できる。
価格はSol APIで入力100万トークンあたり$5、出力100万トークンあたり$30(Terra、Lunaはより低価格)。ultraはより多くのトークンを消費する代わりに、より強力な結果をより短時間で返すと位置づけられている。
ベンチマーク表では伝わらない「エージェント並列処理で何ができるか」を示す素材として、未解決数学問題への挑戦は機能する。有名な未解決問題は、AIベンチマークの世界の外にいる人間にも伝わる言語だからだ。
証明がグラフ理論の専門家の検証を通過すれば、マルチエージェントのテスト時計算(test-time compute)が学術的に公表可能な数学的成果を生み出せるという証拠になる。通過しなければ、それはそれでフロンティアラボが最高価格帯のモードをどう売り込もうとしているかを示す事例として記録される。
詳細はOpenAI says GPT-5.6 Sol Ultra produced a proof of a 50-year graph theory problemを参照していただきたい。