7月10日、The Next Webが「Anthropic hits a $1.2T valuation, overtaking OpenAI」と題した記事を公開した。この記事では、AnthropicがセカンダリーマーケットでOpenAIを上回る1.2兆ドルの評価額に達した経緯と、その特殊な構造について詳しく紹介されている。
「誰も売らない」から値段が上がる
Anthropicの株がセカンダリーマーケット(未上場株の流通市場)で評価額1.2兆ドルに達した。Business Insiderが報じた数字で、1年間で550%の上昇だ。これはOpenAIのセカンダリー評価額(約9,080億ドル)を上回る。
わずか3ヶ月前の評価額は1兆ドル。2025年5月のシリーズHラウンドでの評価額は9,650億ドルだった。数字の上昇ペースが異常に速い。
ただし、この数字の根拠は業績でも新製品でもない。「売り手がほぼ存在しない」という供給不足が価格を押し上げているだけだ。
取引プラットフォームCaplightのCEO、Javier Avalos氏はこう述べている。
「Anthropicはベンチャーセカンダリー市場がこれまで見てきた中で、最も需要の高い企業だ」
Rainmaker SecuritiesのGlen Anderson氏はより直接的で、需要が供給を大幅に上回るため「誰も売らない」ことで取引がほとんど成立しないと説明する。
この極端な品薄感が生む現象として、一部の買い手がAnthropic株と自宅を交換する提案をしたと報告されている。
SPV問題:会社が拒否する経路でも買い手が殺到
実際に成立する取引の多くはSPV(特別目的会社:複数の買い手の資金をまとめて1つのディールにプールする仕組み。未上場株取引で広く使われる)経由だ。
しかしAnthropicはこれを明示的に拒否している。同社の公式サイトは「間接的な経路での株式取得はすべて無効と見なせ」と投資家に警告しており、詐欺への注意喚起も強化している。
それでも買い手は高額の手数料を払ってSPVに流れ込む。Anthropicは自社がコントロールも取り締まりもできないマーケットを背景に評価額を積み上げている形だ。
なぜAnthropicにここまで需要が集中するのか
この異常な需要集中の背景には、Anthropicのビジネスモデルと市場ポジションがある。AnthropicはConstitutional AIと呼ばれる独自の安全性重視の開発手法を掲げており、エンタープライズ市場での信頼獲得を優先してきた。主力モデルClaudeはコーディング・文書作成・エージェント用途で法人採用が拡大しており、GoogleやAmazonからの大規模な戦略的出資も受けている。
こうした構造から、投資家には「OpenAIに次ぐAI覇権の正統な対抗馬」として映りやすい。上場前にポジションを確保しておきたいという動機が、供給の乏しい市場で価格を一方向に押し上げている。
競合動向で言えば、OpenAIはGPT-5.6モデル群(旗艦モデルの通称「Sol」)をリリースして再び注目を集めているが、それでもブローカーが見る需要比率はAnthropicを追う買い手がOpenAIの約2.5倍だ。イーロン・マスクのxAIは200億ドルのラウンドを完了している。
1.2兆ドルで何が買えるか
実態は流動性のない少数株だ。議決権もなく、確実なイグジット(売却・上場による回収)も保証されない。
AnthropicのEarly BackerであるMenlo Venturesのマット・マーフィー氏でさえ、セカンダリー評価額は「ノイジーなシグナル」と表現する。一方で、Anthropicの収益は自社計画を「はるかに超えて」成長していると認めている。
IPOで「希少性」は消える
Anthropicは2025年6月に機密ベースでIPO申請を行っており、数ヶ月以内の上場が見込まれる。上場すれば株式の供給は一気に増え、「誰も売らない」という希少性は消える。公開市場では、立ち去る選択肢を持つ買い手が1.2兆ドルという数字を評価することになる。
過去にも未上場時の評価額が上場後に大きく調整された例は多い。Anthropicにとっては、Claudeの事業成長が唯一の説得材料になる。
詳細はAnthropic hits a $1.2T valuation, overtaking OpenAIを参照していただきたい。